世の中には、努力する人がいる。朝早く起きる人。毎日筋トレする人。マラソンを走る人。
その延長線上にいるようでいて、明らかに何かが違う男がいる。デイビッド・ゴギンズだ。
元Navy SEAL。ウルトラマラソンランナー。元ギネス世界記録保持者。肩書きだけ見れば「すごい人」だ。でも経歴を追うほど、感想は変わっていく。
この人は、ちょっと変だ。そしてその変さに、僕は敬意を持っている。
体重約135kgの害虫駆除作業員だった
ゴギンズは最初から超人だったわけではない。空軍を離れたあと、体重は約135kgまで増えた。仕事は害虫駆除だった。
そんなある日、テレビでNavy SEALsの訓練を目にする。普通なら「すごいな」で終わる。彼は「俺もやる」と決めた。
ただ、当時の体ではSEALになれない。そこで約3か月で45kg以上を落とした。普通なら一年かけることを、人生ごとひっくり返して数か月でやった。ここでもう、少しおかしい。
地獄週間を、三回経験する
SEALの訓練には「Hell Week」がある。約108時間、寒さと睡眠不足の中で心身を追い込まれる、名前通りの地獄だ。
ゴギンズは、病気や負傷によるやり直しを含め、これを3回経験した。地獄から戻った人間が、もう一度地獄へ向かっている。根性という言葉では足りない。
地獄から戻った人間が、もう一度地獄へ向かっている。
ほとんど走っていないのに、100マイル走る
負傷した兵士のための資金を集めたい。そのために過酷なウルトラマラソン「Badwater 135」に出たい。だが参加資格がない。まず100マイル級のレースを完走する必要があった。
当時の彼は、本人によれば年に20マイルほどしか走っていなかった。予選までは約3日半。普通なら来年にする。彼は出場して、完走した。約160km、東京から静岡あたりまでの距離だ。
理由は「必要だったから」。意味が分からない。だが、その一貫性には頭が下がる。
好きだから走るのではない
一番惹かれるのはここだ。
これだけ走る人なら、ランニングが大好きなのだろうと思う。ところが彼は2007年のBadwater 135の前に、記者に「走るのは嫌いだ」と話している。そのレースで3位になった。
好きだからやるのではない。得意だからでも、気分が乗っているからでもない。自分がやると決めたから、やる。
自己啓発の「好きなことを見つけよう」とは真逆で、「嫌いでもやれ」だ。乱暴だと思う。でも、そこまで徹底されると、笑えなくなる。
懸垂4,030回
2013年、ゴギンズは17時間で懸垂4,030回を行い、当時のギネス世界記録を樹立した。
10回ではない。100回でもない。4,030回だ。僕なら20回で「今日は背中に効いたな」と帰る。彼はそこから、あと4,010回やる。ここまで来ると、努力というより執着だ。
まだ走っている
彼は70以上の超長距離・耐久レースに挑んできた。一度すごいことをやって、本を書いて、「昔は無茶したよ」と語る道もあったはずだ。
この男は、まだ走っている。変人であることを、やめない。
変人が見ているのは、苦痛の向こう側
人は苦痛を避ける。寒いから出ない。疲れたから休む。それは生物として正しい。
ゴギンズは反対側へ行く。苦しいから行く。逃げたいから逃げない。「やめろ」という脳の声を、開始の合図にしている。
だから、彼の生き方をそのまま真似する必要はないと思う。怪我するまで走らなくていい。睡眠を削らなくていい。ゴギンズになる必要はない。普通の人がやれば壊れる。あれは彼だから成立している、特殊な生き方だ。
それでも、一つだけ借りられるものがある。
「今日はやりたくない」は、やらない理由になるのか
眠い。面倒くさい。怖い。恥ずかしい。自信がない。僕たちは毎日いくらでも理由を作れる。
ゴギンズを見ていると、そのたびに自分に問いたくなる。
「それは本当に、できない理由なのか?」
彼がかっこいいのは、完璧だからではない。太った。逃げた。弱かった。痛かった。それでも、また自分を引っ張り出してきた。その繰り返しが、彼をここまで連れてきた。
少しだけ、変人になる
人生を変えたい。何かを作りたい。普通とは違う場所へ行きたい。そう言いながら、すべてを「普通」の範囲で済ませようとするのは、どこか矛盾している。人と違う結果を求めるなら、どこかで人と違う行動が必要になる。
ゴギンズほどでなくていい。毎日少しだけ早く起きる。あと一回だけやる。逃げたくなったところで5分だけ続ける。誰にも理解されなくても作り続ける。それくらいの「小さな変人」なら、僕らにもなれる。
ゴギンズを見ていると、「もっと頑張れ」と言われている気はあまりしない。それより、「お前、本当にそれが限界なのか?」と笑われている気がする。腹が立つ。でも同時に、少しワクワクする。
だから僕は、デイビッド・ゴギンズという変人を尊敬している。
明らかに普通ではない。そして、普通ではないから、かっこいい。