JOURNAL / WORK
2026.10.05

「仕事を辞めたい」は、逃げなのか

約6分で読めます(目安)

辞めたい気持ちは、怠けのサインとは限らない。何がすり減っているのかを分解すれば、辞めるべきか、変えるべきかが見えてくる。

日曜の夜になると、気持ちが重くなる。朝、駅に向かう足が遅くなる。「辞めたい」と頭の中で何度もつぶやく。

そして、同じくらいの頻度で、もう一つの声が聞こえる。「でも、それは逃げじゃないのか」。

この二つの声のあいだで、多くの人が何ヶ月も、ときには何年も止まっている。この記事では、どちらの声が正しいかを決めるのではなく、「辞めたい」という気持ちの中身を分解してみる。

「辞めたい」は、一つの感情ではない

「辞めたい」は、ひとまとまりの気持ちに見える。しかし実際には、いくつもの原因が絡み合っていることが多い。

働く人の消耗を説明する枠組みとして、よく使われるのが「仕事の要求度-資源モデル(Job Demands-Resources model)」だ(Bakker & Demerouti, 2007)。このモデルは、仕事を二つの側面に分ける。

仕事の要求仕事の資源
仕事の量、時間の圧力、感情を抑える負担、人間関係の摩擦、役割のあいまいさ自分で決められる裁量、上司や同僚の支え、成長の機会、正当な評価、仕事の意味

要求が高いこと自体は、必ずしも悪いことではない。忙しくても、裁量があり、支えがあり、成長を感じられる仕事なら、人はむしろ没頭できる。

問題は、要求が資源を上回る状態が長く続くことだ。そのとき人は少しずつすり減っていく。逆に、要求がそれほど高くなくても、資源が乏しい職場では、意欲そのものが枯れていく。

つまり「辞めたい」と感じたときに最初に問うべきなのは、「自分は弱いのか」ではない。「何が多すぎて、何が足りないのか」だ。

バーンアウトの三つのサイン

消耗が進んだ状態は「バーンアウト(燃え尽き症候群)」と呼ばれる。WHOは2019年、国際疾病分類(ICD-11)の中で、バーンアウトを病気ではなく「職業上の現象」として位置づけた。うまく管理されていない慢性的な職場ストレスから生じるもの、という定義だ。

研究者のMaslachらは、バーンアウトを三つの側面で説明している(Maslach & Leiter, 2016)。

この三つがそろっているなら、それは根性の問題ではなく、環境と自分の組み合わせがうまくいっていないというサインだ。

なお、眠れない、食べられない、涙が止まらないといった状態が続いているなら、辞めるかどうかを考える前に、医療機関や産業医に相談してほしい。判断は、回復してからでも遅くない。

社内で変わるもの、転職で変わるもの

「何が多すぎて、何が足りないのか」が見えたら、次はそれが今の会社の中で変えられるかどうかを考える。

辞めたい理由社内で変わる可能性転職で変わる可能性
上司との関係異動や担当替えで変わることがある変わるが、次の上司は選べない
仕事内容が合わない部署異動、社内公募職種を変える転職なら大きく変わる
長時間労働部署の問題なら異動で改善会社や業界の構造なら、転職のほうが確実
給与が低い評価制度の範囲でしか上がらない業界や会社の給与水準ごと変えられる
成長実感がない役割を広げる交渉ができる場合もある環境ごと変えられる

この表のポイントは、「辞める」と「我慢する」の二択にしないことだ。あいだには、異動、交渉、役割の変更といった選択肢がある。それを試したうえで変わらないなら、辞める判断はずっと明確になる。

「逃げ」かどうかを分ける問い

逃げることそのものは、悪いことではない。危険な場所から離れるのは、生き物として正しい反応だ。

問題になるのは、何から逃げているのかが分からないまま逃げることだ。原因を分解しないまま職場を変えると、次の職場で同じ問題にぶつかる可能性が高い。上司が原因だと思っていたら、実は仕事内容が合っていなかった。そういうことはよくある。

逆に、何がすり減っていて、何を求めて動くのかを言葉にできるなら、それは逃げではなく移動だ。

何から離れたいのか → 何が足りないのか → それはどこで手に入るのか

今日のワーク

紙かメモアプリに、三つのことを書き出す。

  1. いま、仕事で一番すり減っているものは何か(時間、気持ち、人間関係、意味)
  2. 足りない「資源」は何か(裁量、支え、評価、成長)
  3. それは、今の会社の中で手に入る可能性があるか
例

すり減っているもの:毎日の残業と、深夜のチャット対応

足りない資源

自分で仕事の量を決められる裁量

社内で手に入るか

部署全体の文化なので、異動しない限り難しい → 社内公募を確認し、なければ転職を検討する

三つ目の答えが「ある」なら、まず社内で動いてみる。「ない」なら、辞めるという選択肢を、罪悪感ではなく判断として扱っていい。

辞めたいと感じるのは、弱さの証明ではない。

何がすり減っているのかを知ること。それが、逃げと移動を分ける。

参考文献・出典

Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2007). The Job Demands-Resources model: State of the art. Journal of Managerial Psychology, 22(3), 309–328.

Maslach, C., & Leiter, M. P. (2016). Understanding the burnout experience: Recent research and its implications for psychiatry. World Psychiatry, 15(2), 103–111.

World Health Organization. (2019). Burn-out an “occupational phenomenon”: International Classification of Diseases.