JOURNAL / MONEY
2026.10.07

お金が貯まらないのは、意志が弱いからではない

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給料日のあと、気づくと残っていない。それは意志の問題ではなく、初期設定の問題かもしれない。

QUIZ積立制度を「最初から加入、やめたい人だけ手続き」にしても、加入率はほとんど変わらなかった。答えを見る

×。37%から86%に上がった。

アメリカの大企業の研究。制度の中身は同じで、変えたのは「何もしなかったときの扱い」だけだった。

「今月こそ貯金する」と決めて、月末には何も残っていない。僕も何度もやってきた。そのたびに、自分はお金の管理が下手なんだと思っていた。

でも行動経済学の研究を読むと、貯まるかどうかを大きく分けているのは、意志の強さより、何もしなかったときにどうなるかのほうだった。

「最初から加入」にしただけで、86%が入った

アメリカのある大企業は、1998年に、退職金の積立制度(401(k))の入り方を変えた。それまでは、入りたい人が自分で申し込む方式だった。それを、入社した人は最初から加入していることにして、やめたい人だけが手続きをする方式にした。

この変更の前後を比べた研究では、勤続3〜15か月の社員の加入率は、37%から86%に上がった [1]。制度の中身は同じで、変えたのは「何もしなかったときの扱い」だけだ。

さらに、最初から加入した人の多くは、会社が初期設定にした積立の割合や運用先を、そのまま使い続けていた [1]。人は、決められた初期設定から、なかなか動かない。

申し込む人だけが入る → 37%
やめる人だけが手続きをする → 86%
QUIZ次の昇給分の一部を積立に回すと先に約束する仕組みで、積立の割合は平均3.5%から13.6%に上がった。答えを見る

○。Save More Tomorrow。

今の手取りは減らさず、まだ受け取っていない昇給分を回す。セイラーとベナルツィの研究。

「来年の自分」に貯めさせる

もう一つの研究は、今すぐ貯金を増やすのはつらい、という気持ちを逆に使った。

行動経済学者のセイラーとベナルツィが考えた「Save More Tomorrow(明日はもっと貯めよう)」は、今の手取りは減らさず、次に給料が上がったときに、上がった分の一部を積立に回すと、先に約束してもらう仕組みだ。昇給のたびに積立の割合が少しずつ上がっていく。

この仕組みを使った人たちの積立の割合は、平均で3.5%から13.6%まで上がった [2]。

今の生活を削るのはつらい。でも、まだ受け取っていない昇給分なら、手放してもあまり痛くない。人は「今」と「未来」で、同じお金の重さを違って感じている。

日本で使える「先取り」の仕組み

2つの研究に共通しているのは、貯めることを、毎月の決断にしないということだ。日本でも、給料日に自動でお金を移す方法はいくつかある。

仕組みどういうものか注意
財形貯蓄給料から天引きで積み立てる。勤め先に制度がある場合に使える制度の有無と条件は勤め先で確認する
自動積立定期預金毎月決めた日に、普通預金から定期預金へ自動で移す銀行ごとに設定方法が違う
NISAのつみたて投資枠毎月決めた額で投資信託を自動で買う。年120万円まで、運用益が非課税になる [3]投資なので元本は保証されない

注意:投資には元本割れのリスクがある。この記事は特定の金融商品を勧めるものではない。どれを使うかは、自分の状況に合わせて決めてほしい。

自分の「初期設定」を変える3つ

  1. 給料日の翌日に、自動で移す。残ったら貯める、ではなく、先に移して残りで暮らす
  2. 昇給したら、増えた分の一部を積立に足す。手取りが減ったと感じずに、貯める割合を上げられる
  3. 一度決めたら、毎月は見直さない。見直すのは、年に一度や、収入が変わったときだけでいい

お金について考える順番そのものは、「お金について最初に読む本」にまとめている。

貯まらないのは、意志が弱いからではない。

何もしなくても貯まるように、最初の設定を変えればいい。

参考文献・出典

1. Madrian, B. C., & Shea, D. F. (2001). The Power of Suggestion: Inertia in 401(k) Participation and Savings Behavior. The Quarterly Journal of Economics, 116(4), 1149–1187.

2. Thaler, R. H., & Benartzi, S. (2004). Save More Tomorrow™: Using Behavioral Economics to Increase Employee Saving. Journal of Political Economy, 112(S1), S164–S187.

3. 金融庁「NISA特設ウェブサイト」

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