声を聞いて、その人物がこちらを見ているように感じることがある。何を言ったのかは分かる。でも、その言葉の後ろにある気持ちは、すぐにはつかめない。だから、次の一言を待ってしまう。
QUIZ上田麗奈は、第15回声優アワード(2021年)で主演女優賞を受賞した。答えを見る
×。助演女優賞だった。
2015年の第9回では新人女優賞。第15回の受賞者インタビューでは、人物や台本を客観的に捉える意識を成長として挙げている。
上田麗奈という声優を考えるとき、僕が入口に置きたいのは、その「次の一言を待つ時間」だ。
『鬼滅の刃』の栗花落カナヲで知った人もいれば、『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネ、『わたしの幸せな結婚』の斎森美世、劇場版『チェンソーマン レゼ篇』のレゼで知った人もいると思う [1]。同じ名前が、まったく違う物語の中に見つかる。
「透明感のある声」と言えば、印象は説明できる。でも、出演作とインタビューをたどるほど、声の質感だけでは語れない仕事が見えてくる。誰に話しているのか。何を信じているのか。なぜ今、その言葉を選ぶのか。この記事では、本人の発言と作品から、その仕事をたどってみる。
公開されたインタビューと公式の資料をもとにしています。発言は要約し、作品の読み方についての僕の考えとは分けて書きます。物語の結末には触れません。
舞台から始まった
上田麗奈は富山県出身、81プロデュース所属。公式プロフィールには、趣味・特技として水彩画、ボールペン画、掃除が並ぶ [1]。
2014年のインタビューでは、小学校で演劇クラブに入ったきっかけを、先生への親しみだったと振り返っている。そこで芝居の面白さを知り、中学・高校でも演劇部を続けた。高校では部員も予算も限られる中で活動し、大会で芝居を評価された経験が印象に残っていたという [2]。
2011年の第5回81オーディションでは、特別賞と小学館賞を受賞した [3]。養成所の卒業生としてのメッセージでは、声楽、ダンス、空手、日本舞踊などの授業が仕事に必要だったと書いている。得意なことを伸ばすだけでなく、苦手な授業に向き合ったことが、仕事への姿勢につながったという [4]。
声優を「良い声を持つ人が、その声を披露する仕事」として見ると、この部分は見落とされやすい。身体を使うこと、うまくできない時間に耐えること。演じるための土台は、そこで作られていったのだと思う。
18人の声と、一歩を踏み出せない主人公
初期の仕事で、表現の幅を具体的に示すのが『てさぐれ!部活もの』シリーズだ。2014年のインタビューでは、園田萌舞子ら18人を担当し、声の系統を6つに分けて演じていると説明している。予告では、複数の人物の台詞を自分で考えることも求められたという [5]。
同じ2014年には『ハナヤマタ』で主人公・関谷なるを演じた。鎌倉を舞台に、自分を平凡だと感じている中学生が、一歩を踏み出していく物語だ [6]。当時の取材で上田は、なるを可愛らしいだけの人物や、欠点のない良い子として扱うことを避けたかった、と話している [7]。
気後れしたり、周りを気にしたりする部分があるからこそ、その人が何かを選んだ瞬間に重みが生まれる。「可愛い声を聞く」という入口が、「この子はどうして動けなかったのだろう」という関心に変わっていく。上田の仕事を追う楽しさは、たぶんそこにある。
役は、自分とは別の人
2015年の第9回声優アワードで新人女優賞を、2021年の第15回では助演女優賞を受賞した。第15回の受賞者インタビューで上田が成長として挙げたのは、人物や台本を客観的に捉える意識だった。自分の感じ方で解釈しすぎず、キャラクターは自分とは別の人だと意識する。その転機の一つとして、『クロムクロ』のソフィー・ノエルを挙げている [8]。
2024年のインタビューでは、演じる前に人物の背景、台詞、視線などを細かく考え、練習を重ねると話している [9]。「役に入り込むタイプ」と言われることがあっても、自然に見える芝居の前に、読み解きと準備の時間がある。
『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネについては、誰と話しているかで見せる面が違うことを意識したと述べている。自分を受け入れる相手の前では素が出る一方、教室では壁を作る [10]。
いつも同じ声色、同じ態度で話していれば、一貫しているように見える。でも僕らは、家族と、友人と、初対面の相手に、同じ話し方をしているだろうか。相手によって変わること自体が、その人らしさを作っている。アカネの話し方を聞き比べるなら、声が変わったかだけでなく、何を隠し、何を許しているのかにも耳を向けたい。
似ているから、難しい
『わたしの幸せな結婚』の斎森美世では、別の難しさが語られている。上田はアニメ化の前から、PVや朗読劇で美世に関わってきた。2023年のインタビューでは、自分と似ている部分があるからこそ、美世の細かな心の動きを正確に理解するのが難しかったと話している。そこで頼りにしたのが、監督たちの客観的な指示だった [11]。
似た経験があると、人は相手を理解できたと思いやすい。でも「自分ならこう感じる」という想像が、相手だけの事情を覆い隠すこともある。共感は役への入口になるけれど、それだけで役作りが終わるわけではない。
『鬼滅の刃』の栗花落カナヲは、言葉にすることそのものが大きな変化になる人物だ。2024年の取材で上田は、カナヲがしのぶに気持ちを伝える様子から心の成長を感じたと話し、新しく生まれた素直さや可愛らしさを表現したいと述べている。しのぶ役の早見沙織とは、会話のやり取りができた喜びを分かち合ったという [12]。早見の側も、上田がしのぶへの思いを言葉に乗せて応じたことで、自分も引き出されるものがあったと振り返っている [13]。
一人の役者が作ってきた人物像が、相手の声を受け取ることで動く。声優の演技を個人の能力だけで評価すると、この往復は見えにくい。
準備して、現場で変わる
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のギギ・アンダルシアについて、2026年の取材で上田は、相手を見通すような感覚と、年相応の少女らしさが同居するところに魅力を見いだしている。共演する小野賢章の言葉から、自分の捉え方とは違う感情の可能性に気づいたとも話している [14]。
劇場版『チェンソーマン レゼ篇』のレゼでは、準備した演技を現場で変える過程が具体的に語られている。当初は場面を追って楽しさが高まる流れを考えていたが、収録では早い段階からもっと陽気な印象を求められた。距離の近い場面でも声をしっかり出しながら、騒がしい印象にはしない。その程度を少しずつ調整したという [15]。デンジ役の戸谷菊之介も、上田の演技から感じた距離の近さについて語っている [16]。
事前に考え抜くことと、現場で変われること。準備がなければ、変更の意味を判断しにくい。準備した形だけが正解だと思えば、作品に必要な調整を受け入れにくい。役は、解釈を出して終わりになるものではないのだと思う。
『アオのハコ』の鹿野千夏については、千葉翔也との対談で、大喜との距離が近づいても気持ちは慎重に歩み寄っていると捉えていた。千葉の芝居から、千夏が自分の気持ちを急いで整理しなくてもよい温かさを感じた。原作を読んだとき以上に、収録で会話を交わすことで分かった部分があったとも述べている [17][18]。
強くなっても、弱さは消えない
『わんだふるぷりきゅあ!』の猫屋敷まゆ/キュアリリアンには、上田自身と役との出会いについて、具体的な発言が残っている。自分の引っ込み思案なところから、以前はプリキュアを演じることに距離を感じていた。でも、まゆの性格と猫への愛情に親近感を持ち、自分に似た人物もプリキュアになれるのだという希望を感じたという [20]。
まゆが変身する回についてのインタビューでは、そこで急に強くなるように扱わず、それまでの変化を大切にしたと語っている。守りたいという思いが勇気を生み、弱さを抱えたまま自立していく [19]。その後のライブに向けた取材では、まゆの成長を声で支える責任にプレッシャーを感じた一方、共演者とのやり取りに助けられたと話している [21]。
物語では「強くなった」という言葉で、変化が短く説明される。でも演技としては、それまでに築いた人物を消してしまわないことが大切になる。おびえていた自分も、助けてもらっていた自分も、次の行動の中に残る。
歌うことが、苦手だった
ここからは、自分の名前で表現する仕事をたどりたい。音楽活動の始まりを、本人は迷いを伴うものとして語っている。2020年の取材では、デビューの提案にすぐには応じられず、約1年考えたと振り返った。歌うことへの苦手意識がありながらも、チームで作品を作ることには楽しさを感じるようになった。録音では一つ一つの言葉を台詞のように扱う意識がある、とも話している [22]。
2022年の文化放送の紹介では、デビュー前の歌のテストを通じて、まず自分が伝えたいことを整理する必要を感じたと述べている。先輩から、音楽での経験が芝居にも返ってくると背中を押されたことも、きっかけの一つだった [23]。
2021年の初の単独ライブ「Imagination Colors」のレポートには、スタッフだけでなく観客も作品を支える仲間として捉え、感謝を伝えた様子が記されている [29]。
苦手なことが、表現の方法を探す出発点になる。声の出し方だけでなく、何を言いたいのかを探すことが、音楽への入口になっていた。
QUIZ2026年9月30日発売の「揺蕩う」は、上田麗奈のシングルとしては約6年ぶりのリリースだ。答えを見る
○。TVアニメ『MAO』第2クールのED。
CD作品としては2022年の『Atrium』から約4年ぶり。前のシングルは2020年の「リテラチュア」。
冬・春・夏・秋の4枚
ミニアルバム『RefRain』以降の作品には、季節という共通の手がかりがある [24][28]。
| 作品 | 発売日 | 季節 |
|---|---|---|
| RefRain | 2016年12月21日 | 冬 |
| Empathy | 2020年3月18日 | 春 |
| Nebula | 2021年8月18日 | 夏 |
| Atrium | 2022年10月5日 | 秋 |
『Empathy』では、演じてきたキャラクターと自分の間に生まれた共感を、音楽へ広げようとした。特定の役のキャラクターソングではなく、その人物のどこに心が動いたかを、自分の言葉で捉え直す試みだった [25]。
『Nebula』について上田は、前向きに外へ出た後につまずき、それでも再び歩こうとする流れを説明している。夏のイメージには、明るい海辺だけでなく、深い海の色や暗さも重ねていた [26]。収録曲「デスコロール」では、暗い空間で座って録ることを試したが、比べた結果、曲の前半には事前に録った音源を使ったという [27]。強く感じたテイクが、作品にいちばん合うとは限らない。
四季の最後に位置する『Atrium』では、秋と、自分の歩みを肯定することが結びつく。テーマをスタッフに伝えるために、数か月かけて文章を練り直したと話している [28]。
そして2026年9月30日には、シングル「揺蕩う」が発売された。TVアニメ『MAO』第2クールのエンディングテーマで、CD作品としては『Atrium』から約4年ぶり、シングルとしては約6年ぶりのリリースだ [32]。
声のほかに、絵と写真
ニコニコ生放送の冠番組『アトリエReina』は、上田が芸術を学び、描き、視聴者と共有していく番組で、2025年10月時点で100回を超えて続いている [30]。デジタルフォトブック『わすれな』の取材では、以前のフォトコラムの頃から、撮影に使えるかもしれない服を、色を意識して集めていたと話している [31]。
声、歌、絵、写真には、それぞれ別の技術がある。全部を一つの才能にまとめるのは無理がある。それでも、伝えたいものに合わせて形を選び、他の人と作り、受け取ってもらうという点で、互いに照らし合う部分がある。
自信ではなく、勇気
2021年の受賞者インタビューで、上田は大切にしていることを「お芝居をする際は自信ではなく勇気をもつ」と表現した [8]。
十分に分かったとは言い切れなくても、考えたことを持ってマイクの前に立つ。相手とやり取りし、必要なら考え直す。その繰り返しが、聞く側には一つの自然な台詞として届くのだと思う。
最初に待っていた、あの次の一言。その言葉が出るまでに、演者は何を読み、何を試し、誰の声を受け取ったのか。全部は知れなくても、たどることで、声の奥にいる人物へ少しだけ近づける。
聴く・観る入口
どこから入るか迷ったら、気になった人物を一人選んで、その作品から。音楽なら、季節の4枚を冬から順に。
出典
1. 81プロデュース「上田麗奈 公式プロフィール」
2. アニメイトタイムズ(2014年)「『ハナヤマタ』公式WEBマガジン 第1回」
3. 81プロデュース(2011年)「第5回81オーディション 開催レポート」
4. 81ACTOR'S STUDIO「卒業生からのメッセージ:上田麗奈」
5. アニメイトタイムズ(2014年)「『てさぐれ!部活もの あんこーる』上田麗奈インタビュー」
6. テレビ東京(2014年)「『ハナヤマタ』第一話 番組情報」
7. Rooftop(2015年)「『ハナヤマタ』制作陣インタビュー内「上田麗奈に聞いてみた!!」」
8. WebNewtype(2021年)「第15回声優アワード 助演女優賞・上田麗奈 受賞者インタビュー」
9. ウォーカープラス(2024年)「上田麗奈が語るキャラクターとの縁、桜との縁」
10. 超!アニメディア(2019年)「『SSSS.GRIDMAN』アフレコ後・上田麗奈インタビュー」
11. アニメイトタイムズ(2023年)「『わたしの幸せな結婚』連載インタビュー第一回」
12. MEN'S NON-NO WEB(2024年)「『鬼滅の刃』柱稽古編 栗花落カナヲ役・上田麗奈インタビュー」
13. MANTANWEB(2024年)「早見沙織が語る『鬼滅の刃』柱稽古編の収録」
14. CINRA(2026年)「『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』ギギ役・上田麗奈インタビュー」
15. MANTANWEB(2025年)「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』上田麗奈インタビュー」
16. アニメ!アニメ!(2025年)「『チェンソーマン レゼ篇』戸谷菊之介インタビュー」
17. Seventeen-Web(2024年)「『アオのハコ』千葉翔也×上田麗奈インタビュー」
18. クランクイン!(2024年)「上田麗奈&鬼頭明里が語る『アオのハコ』」
19. MANTANWEB(2024年)「『わんだふるぷりきゅあ!』松田颯水×上田麗奈インタビュー(1)」
20. MANTANWEB(2024年)「『わんだふるぷりきゅあ!』松田颯水×上田麗奈インタビュー(2)」
21. アニメイトタイムズ(2024年)「『わんぷり』ライブ記念インタビュー:上田麗奈」
22. Skream!(2020年)「上田麗奈『Empathy』インタビュー」
23. 文化放送(2022年)「ミニアルバム『Atrium』への思い」
24. ランティス「上田麗奈 公式ディスコグラフィー」
25. リスアニ!(2020年)「『Empathy』インタビュー」
26. Febri(2021年)「『Nebula』フォト&インタビュー 前編」
27. Febri(2021年)「『Nebula』フォト&インタビュー 後編」
28. アニメイトタイムズ(2022年)「ミニアルバム『Atrium』発売記念インタビュー」
29. マイナビニュース(2021年)「上田麗奈 1st LIVE Imagination Colors レポート」
30. ニコニコ生放送「アトリエReina」シリーズページ
31. ブックライブ「デジタルフォトブック『わすれな』配信記念インタビュー」
32. バンダイナムコミュージックライブ(2026年)「「揺蕩う」シングルリリース情報」
もう1問 ○×クイズ
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