デニムとレザーは、なぜ古くなるほど良くなるのか
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太めのジーンズに、少し大きめのレザージャケット。足元は黒い革靴。何年も前から見かける組み合わせなのに、古く見えない。
ほとんどの服は、買った日がいちばんきれいで、そこから少しずつ古びていく。でもデニムとレザーは逆で、着るほど自分の体の形を覚えて、自分のものになっていく。
それはただの雰囲気の話なのか。染色の仕組み、素材の試験、環境負荷の評価、愛着の研究を見ていくと、ちゃんと理由があった。
目次
デニムの色落ちは、設計されている
デニムは、インディゴで染めた縦糸と、染めていない白い横糸を綾織りにした生地だ。表には青い縦糸が多く出て、裏は白っぽく見える。
インディゴは糸の芯まで染み込ませず、外側だけを染める。いわゆる「ロープ染色」「中白(なかじろ)」と呼ばれる状態だ。だから、こすれたり洗ったりして表面の染料が落ちると、中の白い部分が少しずつ顔を出す [3]。
膝の裏、太ももの付け根、ポケットの財布の形。色が落ちる場所は、その人の座り方や歩き方で決まる。色落ちは劣化ではなく、着た人の記録になるように、最初から作られている。
人類学者のダニエル・ミラーとソフィー・ウッドワードは、世界のかなりの人が、どの日をとってもジーンズを履いているかもしれない、と書いている。あまりに当たり前で、誰も研究しようとしなかった服だ、と [4]。誰もが着ているのに、一本として同じ色にはならない。そこがデニムの面白さだと思う。
レザーは、まだ代わりがきかない
ドイツの研究所が、靴用の牛革と、合成皮革、サボテンやパイナップル、リンゴなどから作った「代替レザー」9種類を同じ条件で試験した研究がある [5]。
結果は、強さ、折り曲げへの耐久性、蒸れにくさ(透湿性)のすべてを兼ね備えた素材は、革のほかになかった。いくつかの素材は特定の項目では高い値を出したが、全部ではなかった。また、代替素材の多くは、ポリウレタンなどの樹脂を含んでいた。
| 項目 | 革 | 代替素材・合成皮革 |
|---|---|---|
| 引き裂きへの強さ | 高い | 素材によって大きく差がある。極端に弱いものもあった |
| 透湿性(蒸れにくさ) | 靴の規格(ISO 20942)の基準を大きく上回る | 基準に届かないものが多かった |
| 組成 | コラーゲン繊維の立体的な網目 | 多くがポリウレタンなどの樹脂を含む |
革は、動物の皮のコラーゲン繊維が立体的に絡み合ったものだ。この網目が、強さと、空気や湿気を通す性質の両方を生んでいる。レザージャケットが体の動きに沿ってしわを刻み、肘や肩が自分の形になっていくのも、この繊維が少しずつ伸びて落ち着くからだ。
POINT
デニムもレザーも、新品が完成形ではない。着ることで仕上がっていく素材だ。
長く着る服は、環境にも効く
リーバイ・ストラウスは、2015年に「501」1本の一生をたどるライフサイクル評価を公表した。ジーンズ1本が、綿の栽培から廃棄までに使う水は3,781リットル、温室効果ガスは33.4kg(CO₂換算)。水の68%は綿の栽培、23%は買ったあとの洗濯などで使われ、温室効果ガスでは買ったあとの手入れが37%を占めた [1]。
同じ評価では、2回着るごとに洗うのをやめて10回ごとにすると、着用中の水・エネルギー・気候への負荷を最大80%減らせるとしている。メーカー自身の評価なので割り引いて読む必要はあるが、「洗いすぎない」がデニムの色にも環境にもいい、という点は一致している。
もっと大きいのは、服を長く着ることだ。イギリスの非営利団体WRAPの報告では、服が着られる期間は平均で約2.2年。これを9か月延ばすだけで、炭素・水・廃棄物の負荷がそれぞれ20〜30%減ると見積もっている [2]。
一方、エレン・マッカーサー財団の報告によると、2000年から2015年で世界の衣料の生産量は約2倍になり、1着が手放されるまでに着られる回数は36%減った [6]。服は増えたのに、1着あたりは着られなくなっている。
環境負荷を素材だけで比べると、すぐ捨てられる服と何年も着る服が同じに扱われてしまう。オスロ都市大学の研究者たちは、素材ごとの比較ツールが「使う段階」を無視していることを問題にしている [7]。何年も着られるデニムやレザーの価値は、そこに表れる。
洗わなくても、思ったほど汚くない
カナダのアルバータ大学で、一人の学生が同じジーンズを15か月洗わずに履き続け、繊維学の教員が細菌を調べたことがある。細菌がいちばん多かった股の部分でも、1cm²あたり約8,000〜10,000個で、洗ってから2週間履いたときとほとんど変わらなかった。見つかったのはふつうの皮膚の細菌だった [8]。
ただし、これは1人・1本だけの観察で、論文として検証されたものではない。本人も、数か月で匂いが気になったと話している。汗をかいたら洗う、匂いが気になったら洗うくらいの感覚で、毎回洗わなくていい、と読むのがちょうどいい。
古びた服を、人は大事にする
オランダ・デルフト工科大学のムッゲらは、人が製品に愛着を持つと、ていねいに扱い、壊れても修理し、買い替えを先送りすることを示した。そして、愛着を生む要素のひとつに、その製品と一緒に過ごした時間や思い出を挙げている [9]。
デニムの色落ちも、革のしわも、まさにその時間の跡だ。去年の冬についた肘のしわは、ほかの誰のジャケットにもない。だから手放しにくいし、手放さないから長く着る。素材の性質と、人の心の動きが、同じ方向を向いている。
「目が肥えると、満足できなくなる」では、良いものを知るほど満足しにくくなる話を書いた。でも、育っていく服は少し違う。新しい刺激を足すのではなく、同じものの中に違いを見つけていくから、飽きにくい。
弱いところもある
- 綿は水を多く使う:ジーンズの水の7割近くは綿の栽培で使われる [1]。だからこそ、買う本数を減らして長く履くことに意味がある
- 革の環境負荷は、評価が分かれる:牛を育てる負担を革にどこまで割り振るか、なめしの工程をどう管理しているかで、結果が大きく変わる
- 重い・手入れがいる:レザーは雨に弱く、乾燥するとひび割れる。ときどき保湿のクリームを入れる手間がかかる
- 最初は硬い:どちらも馴染むまでに時間がかかる。その時間を楽しめるかどうかで、向き不向きが分かれる
合わせ方は、色の数を減らすこと
街で見かける、うまくいっている組み合わせには共通点がある。上か下のどちらかにゆとりを持たせて、色を2〜3色に抑えていることだ。
| 組み合わせ | ポイント |
|---|---|
| 黒の大きめレザー × 濃い青のワイドデニム × 黒い革靴 | 上も下もゆったり。裾は靴にたまるくらいの長さでいい。黒とブルーの2色だけ |
| 茶色の古着風レザー × 色落ちした淡い青のストレート × 黒いローファー | 茶と淡いブルーは相性がいい。インナーを黒にすると締まる |
| 黒の短め丈レザー × 黒デニム(裾を折る)× 黒いローファー | 全身を黒でそろえて、素材の違い(革の光沢と、デニムの織り目)で見せる。丈の短い上着なら、下は太くても重くならない |
どれも、主役はデニムとレザーの質感で、色や柄ではない。だから流行が変わっても古く見えにくい。そして何年か着たあと、同じ組み合わせが、買った日よりもよく見えるようになる。
新しい服を何枚も足すより、一本のジーンズと一着のレザーを、長い時間をかけて自分の形にしていく。そういう服の持ち方があってもいいと思う。
参考文献
1. Levi Strauss & Co. (2015). The Life Cycle of a Jean: Understanding the environmental impact of a pair of Levi's 501 jeans.
2. WRAP. (2012). Valuing our clothes: The true cost of how we design, use and dispose of clothing in the UK.
3. Paul R, ed. (2015). Denim: Manufacture, Finishing and Applications. Woodhead Publishing.
4. Miller D, Woodward S. (2007). Manifesto for a study of denim. Social Anthropology, 15(3), 335–351.
5. Meyer M, Dietrich S, Schulz H, Mondschein A. (2021). Comparison of the technical performance of leather, artificial leather, and trendy alternatives. Coatings, 11(2), 226.
6. Ellen MacArthur Foundation. (2017). A New Textiles Economy: Redesigning fashion's future.
7. Laitala K, Klepp IG, Henry B. (2018). Does use matter? Comparison of environmental impacts of clothing based on fiber type. Sustainability, 10(7), 2524.
8. University of Alberta. (2011). Jeans remain surprisingly clean after a year of wear. Folio.
9. Mugge R, Schoormans JPL, Schifferstein HNJ. (2005). Design strategies to postpone consumers' product replacement: The value of a strong person-product relationship. The Design Journal, 8(2), 38–48.