甲状腺機能低下症で、不安は「約4倍」になるのか。数字の出どころを確かめる
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「未治療の甲状腺機能低下症は、不安障害のリスクを約4倍高める」「薬で治療していても、リスクはなくならない」。そんな話を見かけました。数字の出どころと、ほかの研究を確かめてみます。
QUIZ「未治療の甲状腺機能低下症で不安が約4倍」は、幅の狭い、確かな推定値だ。答えを見る
×。1.48〜10.72倍と幅が広い。
2024年の総説が紹介する2015年のドイツの研究の数字で、95%信頼区間は1.48〜10.72とかなり広い。
目次
甲状腺機能低下症とは
甲状腺は、のどぼとけの下にある臓器で、体の代謝を調整する甲状腺ホルモンをつくっています。このホルモンが足りなくなるのが甲状腺機能低下症です。疲れやすさ、むくみ、寒がり、気分の落ち込みなど、さまざまな症状が出ます。治療では、足りないホルモンを薬(レボチロキシン)で補うのが一般的です。
疲れや気分の落ち込みは、うつや不安の症状とも重なります。そのため、甲状腺と心の不調の関係は、長く研究されてきました。
「約4倍」の数字は、どこから来たのか
「未治療の甲状腺機能低下症は、不安障害のリスクを約4倍高める」という話を見かけることがあります。調べると、この数字は2024年に発表された総説(研究のまとめ)に出てくるものでした [1]。
総説の中で紹介されているのは、2015年のドイツの研究です。平均55歳で、甲状腺機能低下症と診断され、甲状腺ホルモンの薬を使っていない人では、不安を抱えるリスクが3.98倍(95%信頼区間1.48〜10.72)と報告されています [1] [2]。
つまり、「2024年の研究で示された」というより、「2024年の総説が、2015年の研究の結果として紹介している」というのが正確なところです。
この数字を読むときの注意
- 幅がとても広い:95%信頼区間は1.48〜10.72です。本当の値は1.5倍程度かもしれないし、10倍を超えるかもしれない、という幅です。「約4倍」と一つの数字で覚えるのは危険です
- 関係を見た研究:ある時点で、甲状腺の状態と不安を同時に調べたもので、甲状腺機能低下症が不安を引き起こしたとまでは言えません
- 研究によって結果が違う:総説自身も、甲状腺機能低下症の人で不安の程度が健康な人と変わらなかったという研究を紹介しています [1]
POINT
「約4倍」は一つの研究の、幅の広い推定値。確かな事実として広めるには、まだ早い。
19の研究をまとめると:不安は約2.3倍
より多くの研究をまとめた分析もあります。自己免疫性の甲状腺炎や、甲状腺機能低下症(軽いものを含む)の人を、甲状腺に問題のない人と比べた19の研究のメタ分析では、不安障害のオッズ比は2.32(95%信頼区間1.40〜3.85)、うつは3.31でした(論文の訂正後の値)[3]。
ただし、研究ごとのばらつき(異質性)がとても大きく、結果は慎重に読む必要があります。それでも、甲状腺の病気と不安やうつの間に関係があることは、複数の研究で示されています。
QUIZ甲状腺ホルモンの薬で治療中の女性でも、不安がある人の割合は高かった。答えを見る
○。29.4%対16.7%。
スペインの研究。治療中でも不安やうつのリスクがなくなるとは限らず、気分の不調には別に気を配る必要がある。
治療を受けていても、不安は多かった
スペインで、レボチロキシンで治療を受けている甲状腺機能低下症の女性153人と、甲状腺機能低下症のない女性240人を比べた研究があります。不安がある人の割合は、治療を受けている女性で29.4%、そうでない女性で16.7%でした。オッズ比は不安で2.08、うつで3.13でした [4]。
著者らは、レボチロキシンの治療だけでは、不安やうつのリスクがなくなるとは限らないと結論づけ、甲状腺機能低下症の女性の気分にも目を向けるよう勧めています。2024年の総説も、薬を使っているかどうかにかかわらず、甲状腺機能低下症は不安やうつのリスクを高めると整理しています [1]。
ただし、この研究は協力を得やすい人を集めた比較で、人数も多くありません。治療が効いていないという意味ではなく、治療中でも気分の不調には別に気を配る必要がある、と読むのが妥当だと思います。
逆の方向もある:不安やうつのある人は、のちに甲状腺の病気になりやすかった
イギリスの約35万人を13年追った研究では、はじめに不安やうつの症状が強かった人ほど、のちに甲状腺の病気(機能低下症や機能亢進症)と診断されやすい傾向がありました [5]。
甲状腺の病気が不安を生むのか、不安が甲状腺の病気に先立つのか、あるいは共通の原因があるのか。関係はどちらの向きもありうる、というのが今の研究の段階です。
まとめ:気分の不調が続くときに
- 「未治療の甲状腺機能低下症で不安が約4倍」は、2024年の総説が紹介する2015年の研究の数字で、幅(1.48〜10.72倍)がとても広い
- 19の研究のまとめでは、甲状腺機能低下症や甲状腺炎の人で不安は約2.3倍だった(ばらつきは大きい)
- レボチロキシンで治療中の女性でも、不安は多かった(29.4%対16.7%)
- 不安やうつのある人が、のちに甲状腺の病気になりやすいという研究もある
疲れや気分の落ち込み、不安が続くときは、心の問題だけでなく、甲状腺など体の病気が関わっていることもあります。気になるときは医療機関で相談し、必要なら甲状腺の検査も受けてください。すでに治療中の人は、薬の量を自己判断で変えず、気分の不調も含めて主治医に伝えてください。
参考文献
1. Osnaya-Brizuela, N., et al. (2024). Is the acquired hypothyroidism a risk factor for developing psychiatric disorders? Frontiers in Psychiatry, 15, 1429255.
2. Ittermann, T., Völzke, H., Baumeister, S. E., Appel, K., & Grabe, H. J. (2015). Diagnosed thyroid disorders are associated with depression and anxiety. Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology, 50(9), 1417–1425.
3. Siegmann, E.-M., Müller, H. H. O., Luecke, C., Philipsen, A., Kornhuber, J., & Grömer, T. W. (2018). Association of depression and anxiety disorders with autoimmune thyroiditis: a systematic review and meta-analysis. JAMA Psychiatry, 75(6), 577–584.
4. Romero-Gómez, B., Guerrero-Alonso, P., Carmona-Torres, J. M., et al. (2019). Mood disorders in levothyroxine-treated hypothyroid women. International Journal of Environmental Research and Public Health, 16(23), 4776.
5. Fan, Y., et al. (2024). The association between depression, anxiety, and thyroid disease: a UK Biobank prospective cohort study. Depression and Anxiety, 2024, 8000359.
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