ミスが続く。周りの人は簡単にこなしているように見える。毎朝、「自分はこの仕事に向いていないのかもしれない」と思う。
この感覚は、ときに正しく、ときに間違っている。問題は、「向いていない」が何に向いていないのかを区別していないことだ。
「相性」には、いくつかの層がある
働く人と環境の相性は、組織心理学で「適合(fit)」と呼ばれ、長く研究されてきた。172の研究を統合したメタ分析では、人と環境の適合が高いほど、仕事の満足度や組織へのコミットメントが高く、辞めたいという意図が低いことが示されている(Kristof-Brown, Zimmerman & Johnson, 2005)。
この研究で重要なのは、適合を一つではなく、いくつかの層に分けている点だ。
| 層 | 意味 | 合っていないときのサイン |
|---|---|---|
| 仕事との適合 | 能力や興味が、仕事内容に合っているか | 仕事そのものに興味が持てない。努力しても上達の手応えがない |
| 組織との適合 | 価値観が、会社の文化に合っているか | 会社が大切にしていることに共感できない |
| チームとの適合 | 一緒に働く人と、働き方が合うか | 仕事は好きなのに、職場にいると疲れる |
| 上司との適合 | 上司との関係やコミュニケーション | 特定の人の前でだけ萎縮する |
「向いていない」と感じたとき、それが仕事そのものの問題なのか、職場や人の問題なのかで、取るべき行動はまったく違う。仕事は好きなのに職場が合わないなら、職種を変える必要はない。同じ仕事を別の会社でやればいい。
「慣れていない」と「向いていない」は違う
もう一つ区別したいのが、時間の問題だ。新しい仕事を始めて数ヶ月なら、うまくいかないのは当然だ。誰にでも、できないことが多い時期がある。
見分けるヒントは、上達の傾きだ。半年前の自分と比べて、少しでもできることが増えているか。増えているなら、それは「向いていない」ではなく「まだ途中」だ。半年経ってもまったく手応えがなく、興味も持てないなら、仕事との適合を疑っていい。
辞める前に、仕事を「作り直す」
向いていないと感じたとき、選択肢は「我慢する」か「辞める」だけではない。
WrzesniewskiとDuttonは、働く人が自分の仕事を主体的に作り変えていく行動を「ジョブ・クラフティング」と名づけた(Wrzesniewski & Dutton, 2001)。具体的には、三つの方向がある。
- 作業を変える:得意なことに時間を多く使う、やり方を工夫する、新しい役割を引き受ける
- 関係を変える:関わる人を増やす、相談できる人を見つける
- 意味を変える:この仕事が誰の役に立っているのかを捉え直す
もちろん、ジョブ・クラフティングで何でも解決するわけではない。裁量がほとんどない職場では、作り変える余地自体が小さい。ただ、試してみて変わらなかったなら、それは「向いていない」を考える判断材料の一つになる。辞めるかどうかを、感覚だけで決めずに済む。
今日のワーク
- 「向いていない」と感じる場面を、3つ書き出す
- それぞれが、仕事・組織・チーム・上司のどの層の問題かを分ける
- 半年前の自分と比べて、できるようになったことを1つ書く
場面:会議で発言できない/数字の資料作りが苦痛/上司に報告するのが怖い
層会議と報告は「上司との適合」、資料作りは「仕事との適合」
判断仕事内容より、上司との関係の比重が大きい → 職種を変えるより、環境を変える選択肢を考える
「向いていない」は、自分を責める言葉になりやすい。
何に向いていないのかを分けたとき、それは自分を知るための言葉に変わる。
参考文献・出典
Kristof-Brown, A. L., Zimmerman, R. D., & Johnson, E. C. (2005). Consequences of individuals' fit at work: A meta-analysis of person–job, person–organization, person–group, and person–supervisor fit. Personnel Psychology, 58(2), 281–342.
Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 26(2), 179–201.