初めて会った人たちのなかで、いちばん好かれるのは誰か。心理学の研究には、少し意外な答えが出ている。
QUIZ初対面の自己紹介だけで評価し合うと、ナルシシズムの高い人はむしろ好かれやすかった。答えを見る
○。初対面では人気が出やすかった。
ドイツの大学1年生73人の研究。手入れされた服装、魅力的な表情、自信のある身ぶり、ユーモアが効いていた。
ナルシシストと聞くと、自分が大好きで、話が長くて、人の話を聞かない人を思い浮かべる。僕もそうだった。
でも、少し見方を変えると、別の姿が見えてくる。ナルシシストは、自分自身を作品として扱う人だ。外見、語り口、存在感。そのすべてを、偶然ではなく意図で形づくる。
この記事では、その技術を4つに分けて見ていく。そして最後に、この作品がどこで壊れるのかを考える。
素材と作家が、同じ人
画家はキャンバスに描く。彫刻家は石を削る。ナルシシストが彫るのは、自分自身だ。素材と作家が同じ。そう考えると、これはある意味で最も純粋な芸術行為だと言える。
この考え方は、ナルシシストだけのものではない。ニーチェは「自分の性格に様式を与えること。それは偉大で、めったにない技術だ」と書いた(僕なりの訳) [2]。ボードレールは、身なりと振る舞いを磨き上げる「ダンディ」を、一種の「自分自身への信仰」と呼んだ [3]。フーコーは晩年のインタビューで、ランプや家が芸術作品になるのに、なぜ人の生き方は芸術作品になれないのか、と問いかけている [4]。
自分を作品として扱う。それ自体は、哲学者たちが本気で考えてきたテーマだ。
そして、それは見た目にちゃんと現れる。ドイツの大学1年生73人が、初対面の自己紹介だけでお互いを評価した研究では、ナルシシズムの高い人ほど好かれていた。理由として見えたのは、手入れされたおしゃれな服装、魅力的な表情、自信のある身ぶり、ユーモアのある話し方だった。服装だけを写した静止画を、関係のない人に見せても、同じ傾向が出た [5]。
外見を整えることは、内面と関係のない飾りではない。初対面の人は、そこから人柄を読みとっている。清潔感の要素を分解した記事で書いたことと、同じ話だ。
物語の中心に、自分を置く
優れたナルシシストは、語りがうまい。電車が遅れた話も、仕事で失敗した話も、気づけば自分が主人公の物語になっている。
これは、小説家や俳優が持っている技術と、本質的には同じだ。出来事を選び、順番を決め、意味をつける。同じ一日でも、語り方ひとつで「何もなかった日」にも「転機の日」にもなる。
心理学には、人は自分の人生を物語として理解している、という考え方がある(ナラティブ・アイデンティティ)。物語を持つこと自体は、誰にでもある。ナルシシストは、その物語の中心に自分を置くことに、ためらいがない。それだけのことだ。
他者を、鏡にする
ナルシシズムの核心は、他者を「鏡」として使うことにある。
ギリシャ神話のナルキッソスは、泉に映った自分の姿に恋をして、そこから離れられなくなった [1]。彼が見つめていたのは、他人ではなく、自分の像だった。
ナルシシストにとって、まわりの人は、自分を映し返してくれる面になる。褒めてくれる人、驚いてくれる人、うらやんでくれる人。人間関係を、自分を映すための装置として組み立て直す。冷たい見方だけれど、どこか詩的でもある。
精神分析家のコフートは、自分を認めて映し返してもらうこと(ミラーリング)を、子どもの健全な発達に必要なものとして考えた [7]。誰かの目に映る自分を確かめたい気持ちは、特別な人だけのものではない。違いは、その鏡をどれだけ必要とするかにある。
傷さえも、神話の部品にする
ナルシシストは、過去の失敗や傷さえも、自分の神話の部品として使い直す。どん底の時期は「覚醒の前夜」になり、挫折は「伝説の序章」になる。醜いものを、光るものに変える。一種の錬金術だ。
これも、まるきり悪いことではない。心理学者のマクアダムスは、悪い出来事が良い結果につながっていく語り方を「贖罪(あがない)の物語」と呼んだ。次の世代や社会のために動く大人ほど、自分の人生をこの形で語る傾向があると報告している [6]。
傷を意味に変える力は、人を立ち直らせる。問題は、それが事実を書き換え始めたときだ。失敗を物語に変えるのはいい。失敗をなかったことにするのは、物語ではなく嘘になる。
QUIZ自分を高く評価する人への印象は、7回会ったあとも初対面と変わらなかった。答えを見る
×。7回目には否定的な評価に変わった。
カナダの研究。1回目は感じがよく有能だと見られたが、20分の話し合いを7回重ねると評価は下がっていた。
7回目に、鏡は割れる
ここまで読むと、ナルシシストの技術は良いことずくめに見える。でも、この作品には弱点がある。
カナダの心理学者ポーラスは、初対面の4〜6人のグループで、20分の話し合いを7回くり返してもらった。自分を高く評価する傾向の強い人(ナルシシズムの尺度などで測った)は、1回目のあとでは、感じがよく、有能で、よく適応していると見られていた。ところが7回目のあとでは、否定的に評価されるようになっていた [8]。
冒頭の研究にも、気になる結果がある。初対面でいちばん魅力的に見えたのは、長い目で見ると最も問題になりやすい「人を利用する・特別扱いを求める」という側面だった [5]。
作品は、初対面で輝く。でも、鏡として扱われた人は、いつか自分が鏡にされていることに気づく。
ナルキッソスの泉は、ただ映すだけで、何も求めなかった。人間は違う。映し返すだけの役を、ずっと引き受けてくれる人はいない。
ここに、この芸術の根本的な欠陥がある。観客が、消耗品だということだ。
ふつうの作品は、観客がいなくなっても残る。絵は壁に掛かったまま、次に見る人を待てる。でも、自分を作品にした人は、見てくれる人がいないと成り立たない。そして鏡として使われた人は、少しずつすり減って、離れていく。だから、また新しい観客を探すことになる。
優れた職人は、素材を大切にする。木目を読み、石の割れ目に逆らわない。ナルシシズムの芸術は、その逆だ。まわりの人という素材を食い潰しながら、燃えていく。
美しいが、持続しない。燃えている間だけ輝く、燃える彫刻のようなものだ。
逆境に強い、という明るい側面
ナルシシズムには、もう一つ、見落とされがちな顔がある。
心理学では、ナルシシズム、マキャベリズム(目的のためなら人を操作する傾向)、サイコパシー(共感や罪悪感の乏しさ)の3つを、まとめて「ダークトライアド」と呼ぶ。2024年に、この3つとメンタルタフネス(プレッシャーや逆境に負けない心の強さ)の関係を調べた研究をまとめた分析が出た。合わせて1万2千人あまりのデータだ [9]。
結果、3つのうちナルシシズムだけが、メンタルタフネスと中くらいの強さで結びついていた(相関係数 r = 0.33)。マキャベリズムとサイコパシーは、ほとんど関係がなかった [9]。
「自分ならできる」という少し大きすぎる自己像は、逆境のときには、折れないための支えにもなる。
ただし、これは「同時に測ると、両方が高い人が多い」という相関の研究だ。ナルシシズムが心を強くすると確かめたわけではない。メンタルタフネスも、多くは本人の自己評価で測られている。自分を高く見る人は、自分の強さも高く答えやすい。その点は差し引いて読みたい。
それでも、自分を作品として信じる力が、うまくいかない日に自分を支える。ここまでの話とつなげると、そう読める。問題になるのは、その自信を、他人を鏡にして保とうとしたときだ。
盗むのは技術、捨てるのは鏡
だから僕は、ナルシシストの技術を、分けて受け取りたいと思う。
- 盗むもの:自分を作品として扱う姿勢。逆境で折れない自己信頼。外見を意図して整えること。出来事を物語として語る力。傷を意味に変える力。
- 捨てるもの:他人を鏡にすること。観客を使い捨てること。都合の悪い事実を物語から消すこと。
作家は、作品への批評を聞くことができる。作品と自分のあいだに、少しだけ距離があるからだ。素材と作家が同じだと、その距離がなくなる。作品への批判が、自分への攻撃に聞こえてしまう。
自分を作品にするなら、作家としての目も持っておきたい。鏡ではなく、ちゃんと自分を見てくれる他人の目を、批評として受け取れるように。セルフイメージの記事で書いた「自分をどう見るか」は、ここにつながっている。
自分を彫ることは、悪いことではない。
ただ、彫った像に見とれて、泉から離れられなくなったら、ナルキッソスと同じ結末になる。
観客を燃やして輝く彫刻ではなく、見てくれる人と一緒に残っていく彫刻を彫りたい。
自分を作品にする。でも、他人は鏡にしない。それが、僕なりのナルシシズムとの付き合い方だ。
参考
1. オウィディウス『変身物語』第3巻(ナルキッソスとエコー). 原著は紀元後8年ごろ.
2. Nietzsche F. (1882/1887). Die fröhliche Wissenschaft(『悦ばしき知識』), §290.
3. Baudelaire C. (1863). Le Peintre de la vie moderne(『現代生活の画家』), IX「ダンディ」.
4. Foucault M. (1983). On the genealogy of ethics: An overview of work in progress. In: Dreyfus H. L., Rabinow P. Michel Foucault: Beyond Structuralism and Hermeneutics (2nd ed.). University of Chicago Press.
5. Back M. D., Schmukle S. C., Egloff B. (2010). Why are narcissists so charming at first sight? Decoding the narcissism–popularity link at zero acquaintance. Journal of Personality and Social Psychology, 98(1), 132–145.
6. McAdams D. P. (2006). The Redemptive Self: Stories Americans Live By. Oxford University Press.
7. Kohut H. (1971). The Analysis of the Self. International Universities Press.
8. Paulhus D. L. (1998). Interpersonal and intrapsychic adaptiveness of trait self-enhancement: A mixed blessing? Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1197–1208.
9. Liang T., Wang X., Ng S., Xu X., Ning Z. (2024). The dark side of mental toughness: A meta-analysis of the relationship between the dark triad traits and mental toughness. Frontiers in Psychology, 15, 1403530.
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