オキシトシンは、どうすれば出るのか。ハグ、犬、スプレーの研究を確かめる
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「ハグをするとオキシトシンが出る」「オキシトシンで信頼が深まる」。そんな話をよく見かけます。オキシトシンを出す方法として、研究で確かめられていることを整理します。
QUIZオキシトシンを鼻から吸うと、人を信頼しやすくなることが、大規模な再現試験で確かめられた。答えを見る
×。677人の試験で効果はなかった。
2005年の有名な研究は、その後うまく再現されず、2020年の大規模な再現試験でも信頼の行動に影響はなかった。
目次
オキシトシンとは
オキシトシンは、脳の視床下部でつくられるホルモンです。出産のときに子宮を収縮させ、授乳のときに母乳を出す働きがよく知られています。最近では、人とのつながりや安心感に関わる物質としても注目され、「愛情ホルモン」「幸せホルモン」と呼ばれることもあります。
オキシトシンが出る場面
オキシトシンが出る仕組みについての総説では、肌や粘膜への、痛みのない心地よい刺激がオキシトシンの放出につながると整理されています。具体的には、出産、授乳、性的な活動のほか、母親と赤ちゃんの肌と肌の触れ合い、人との温かいやりとり、いくつかの種類のマッサージで、オキシトシンが出ることが報告されています [1]。
総説の著者らは、脳で出たオキシトシンが、報酬系でドーパミンの放出を促したり、扁桃体に働いて不安を和らげたり、ストレス反応を弱めたりすることで、安心感につながっている可能性を挙げています [1]。
| オキシトシンが出るとされる場面 |
|---|
| 出産、授乳 |
| 性的な活動 |
| 肌と肌の触れ合い(親子、パートナー) |
| 温かい人とのやりとり |
| マッサージ |
ハグが多い女性は、オキシトシンが高かった
閉経前の女性59人を調べた研究では、パートナーとのハグが多い女性ほど、オキシトシンの値が高く、血圧と心拍数が低い傾向がありました [2]。
ただし、これは関係を見た研究で、ハグをしたからオキシトシンが上がったのか、もともとの関係の良さが両方に表れているのかは分かりません。
QUIZ犬と長く見つめ合った飼い主では、尿のオキシトシンが上がった。答えを見る
○。犬のほうでも上がった。
30分一緒に過ごした実験。人に慣れたオオカミと飼い主では、こうした変化は見られなかった。
犬と見つめ合うと、飼い主のオキシトシンが上がった
犬と飼い主を30分一緒に過ごさせた研究では、長く見つめ合ったペアほど、飼い主の尿のオキシトシンが上がり、犬のほうでも上がっていました。人に慣れたオオカミと飼い主では、こうした変化は見られませんでした [3]。
この研究には、犬とオオカミでは育ち方なども違うため比べ方に限界がある、という指摘もあります。それでも、ペットとの触れ合いがオキシトシンに関わる可能性を示した研究として知られています。
POINT
オキシトシンは「飲んで増やすもの」というより、人や動物との触れ合いの中で出てくるものとして研究されている。
「鼻から吸うと信頼が高まる」は再現されなかった
2005年、「オキシトシンを鼻から吸った人は、相手をより信頼してお金を預けた」という研究が科学誌に載り、大きな話題になりました。その後、「オキシトシンのスプレー」が売られるきっかけにもなりました。
ところが、同じような実験をくり返した研究では、この結果がうまく再現されませんでした。研究をまとめた2015年の総説は、オキシトシンが人の信頼を確かに高めるという、しっかりした証拠はないと結論づけています [4]。
2020年には、もとの研究者も加わり、男性677人を対象に、もとの実験の条件をできるだけそろえた大規模な再現試験が行われました。結果は、オキシトシンは信頼の行動に影響しませんでした [5]。
オキシトシンの研究を読むときの注意
- 多くの研究は人数が少ない:鼻から吸うオキシトシンの研究を見直した論文は、この分野の研究は全体として検出力が足りず、発表された結果の多くが本当の効果ではない可能性が高いと指摘しています [6]
- 測り方に問題がある:血液などのオキシトシンを測る市販の検査は、前処理(抽出)をしないと、オキシトシン以外の物質まで拾ってしまい、値が100倍以上高く出ることもあるとされています [7]。「〇〇でオキシトシンが〇倍に」という話を見たら、どう測ったかに注意が必要です
- 血液の値と脳の働きは同じではない:体の中で測った値が、脳の中で起きていることをそのまま表しているとは限りません
まとめ:オキシトシンを「出す」ために、できること
- オキシトシンは、出産や授乳、肌の触れ合い、温かい人とのやりとり、マッサージなどで出ると報告されている
- パートナーとのハグが多い女性は、オキシトシンが高く、血圧が低い傾向があった(関係を見た研究)
- 犬と長く見つめ合った飼い主では、オキシトシンが上がった
- 「オキシトシンを吸うと信頼が高まる」は、677人の再現試験で効果がなかった
- オキシトシンの研究は少人数のものが多く、測り方にも問題がある
研究から言えるのは、オキシトシンを「上げる方法」を探すより、大切な人や動物と触れ合い、温かいやりとりをする時間をつくることのほうが、自然で無理がないということです。オキシトシンのスプレーやサプリに頼る根拠は、今のところ十分ではありません。
参考文献
1. Uvnäs-Moberg, K., Handlin, L., & Petersson, M. (2015). Self-soothing behaviors with particular reference to oxytocin release induced by non-noxious sensory stimulation. Frontiers in Psychology, 5, 1529.
2. Light, K. C., Grewen, K. M., & Amico, J. A. (2005). More frequent partner hugs and higher oxytocin levels are linked to lower blood pressure and heart rate in premenopausal women. Biological Psychology, 69(1), 5–21.
3. Nagasawa, M., Mitsui, S., En, S., et al. (2015). Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds. Science, 348(6232), 333–336.
4. Nave, G., Camerer, C., & McCullough, M. (2015). Does oxytocin increase trust in humans? A critical review of research. Perspectives on Psychological Science, 10(6), 772–789.
5. Declerck, C. H., Boone, C., Pauwels, L., Vogt, B., & Fehr, E. (2020). A registered replication study on oxytocin and trust. Nature Human Behaviour, 4(6), 646–655.
6. Walum, H., Waldman, I. D., & Young, L. J. (2016). Statistical and methodological considerations for the interpretation of intranasal oxytocin studies. Biological Psychiatry, 79(3), 251–257.
7. McCullough, M. E., Churchland, P. S., & Mendez, A. J. (2013). Problems with measuring peripheral oxytocin: can the data on oxytocin and human behavior be trusted? Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 37(8), 1485–1492.
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