しゃがんで立つと、頭はよくなるのか。立ちくらみと「再灌流」の説を確かめる
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正座やしゃがみ座りから立ったときの、軽い立ちくらみ。あれは「血が脳に上がっている」証拠で、頭がよくなる。そんな説があります。確かめてみると、体の中では逆のことが起きていました。
QUIZしゃがんだ姿勢から立ったときの立ちくらみは、脳に血が一気に上がるせいで起こる。答えを見る
×。脳への血流が一瞬足りなくなる。
立ち上がって15秒以内に血圧が一時的に下がり、脳への血流が足りなくなって起こる。「初期起立性低血圧」と呼ばれる。
目次
よく聞く説:しゃがんで立つと、脳に血が上がる
こんな説を聞いたことがあります。椅子に座るより、正座やしゃがみ座り(いわゆるウンコ座り)がいい。足の血流が止まり、立ち上がると一気に流れ出す。この「制限→解放」で、軽い立ちくらみが起きる。それは血が脳に上がっている証拠で、頭がよくなる、というものです。
体の仕組みとして、本当にそうなっているのでしょうか。研究と医学の説明から確かめてみます。
立ちくらみは、脳の血が「足りない」サイン
立ち上がった直後に、目の前が暗くなったり、ふらっとしたりする。これは「初期起立性低血圧」と呼ばれる状態で、立ち上がってから15秒以内に、血圧が一時的に大きく下がることで起こります。目安は、上の血圧が40mmHg以上、または下の血圧が20mmHg以上下がり、脳への血流が足りなくなった症状(ふらつき、目の前が暗くなるなど)を伴うことです [1]。
立ち上がるとき、脚の筋肉の血管が広がり、血管の抵抗が急に下がります。心臓から送り出す血液の量がそれに追いつくまでの、ほんの数秒のずれで、血圧が下がると考えられています [1]。
POINT
立ちくらみは、血が脳に「上がった」ときではなく、脳への血が一瞬「足りなくなった」ときに起きる。
つまり、説の中で「血を脳にあげている」と言われていた立ちくらみは、実際には逆のことが起きているサインです。
「再灌流」は、よいこととは限らない
説に出てくる「再灌流」は、医学の言葉です。血流が止まった組織に、ふたたび血が流れ込むことを言います。
ただ、医学でこの言葉がよく使われるのは、心筋梗塞や脳梗塞のあとなどで、血流が戻ること自体が組織をさらに傷めてしまう「虚血再灌流障害」の文脈です [2]。血流を止めて戻せば体によい、という意味の言葉ではありません。
正座やしゃがみ座りで足がしびれ、立つとジンジンするのは、圧迫で弱まっていた血流と神経の働きが戻る途中の感覚です。これが脳によい影響を与える、という研究は見つかりませんでした。
立ちくらみと頭の働きの研究
立ちくらみと頭の働きの関係を、長く追った研究もあります。オランダで、認知症のない約6,200人を中央値で約15年追った研究では、立ち上がって3分以内に血圧が大きく下がる起立性低血圧があった人は、のちに認知症になるリスクが約1.15倍でした。立ったときに心拍数があまり上がらず、血圧の低下を補えない人では、さらに高くなっていました [3]。
これは観察研究で、原因と結果を示したものではありません。数字の幅も、ぎりぎり意味があるかどうかという大きさでした。それでも、「立ちくらみを繰り返すと頭がよくなる」とは、逆の方向の結果です。
QUIZ手や膝をつかずに床に座って立てるかの点数が低い人ほど、死亡リスクが高かった。答えを見る
○。最低のグループは約5.4倍。
ブラジルの51〜80歳約2,000人の研究。観察研究なので、練習すれば長生きするとまでは言えない。
それでも、床から立てる力には意味がある
では、床に座ったり、しゃがんだりする生活に意味はないのでしょうか。そうとも言えません。
ブラジルで51〜80歳の約2,000人を調べた研究では、手や膝をつかずに床に座り、立ち上がれるかを10点満点で採点しました。点数がいちばん低いグループは、いちばん高いグループに比べて、約6年の間に亡くなるリスクが約5.4倍高くなっていました [4]。
これも観察研究なので、床から立つ練習をすれば長生きする、と言えるわけではありません。ただ、脚の筋力、柔軟性、バランスをまとめて表す目安として、床から立てる力には意味がありそうです。
つまり、しゃがむ姿勢に価値があるとすれば、それは「立ちくらみで脳に血を送る」からではなく、しゃがんで、立てる体を保つことにあると僕は考えています。深いスクワットと膝の記事もあわせてどうぞ。
正座としゃがみ座りで気をつけること
- 長時間の正座は、ふくらはぎや膝の外側の神経が圧迫され、しびれが出る。まれに、足首が上がりにくくなるなどの症状が残ることもあるので、しびれが長く続くときは整形外科へ
- しゃがんだ姿勢から立つときは、勢いよく立たず、何かにつかまってゆっくり立つ
- 立ちくらみで倒れそうになる、気を失う、立ちくらみが頻繁に起きる、といったときは、医療機関で相談する
まとめ
- 立ちくらみは、立ち上がった直後に血圧が下がり、脳への血流が一時的に足りなくなって起きる
- 「再灌流」は医学では、血流が戻ることで組織が傷む「再灌流障害」の文脈で使われる言葉
- 立ちくらみを繰り返すと頭がよくなる、という研究は見つからなかった。起立性低血圧と認知症リスクの関連を示した観察研究はある
- 床に手をつかずに座り、立てる人ほど、死亡リスクが低かったという研究はある
正座もしゃがみ座りも、悪い姿勢ではありません。ただ、頭をよくする方法として、立ちくらみを起こしにいく必要はない。むしろ、ふらつかずに立てる体を保つほうに意味があると思います。
参考文献
1. Wieling, W., Krediet, C. T. P., van Dijk, N., Linzer, M., & Tschakovsky, M. E. (2007). Initial orthostatic hypotension: Review of a forgotten condition. Clinical Science, 112(3), 157–165.
2. Kalogeris, T., Baines, C. P., Krenz, M., & Korthuis, R. J. (2012). Cell biology of ischemia/reperfusion injury. International Review of Cell and Molecular Biology, 298, 229–317.
3. Wolters, F. J., Mattace-Raso, F. U. S., Koudstaal, P. J., Hofman, A., Ikram, M. A., et al. (2016). Orthostatic hypotension and the long-term risk of dementia: A population-based study. PLoS Medicine, 13(10), e1002143.
4. Brito, L. B. B., Ricardo, D. R., Araújo, D. S. M. S., Ramos, P. S., Myers, J., & Araújo, C. G. S. (2014). Ability to sit and rise from the floor as a predictor of all-cause mortality. European Journal of Preventive Cardiology, 21(7), 892–898.
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