完璧な計画を、
待たないほうがいい理由。
待たない
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「もう少し調べてから」と言ったまま、何週間も経っていることがある。
計画を磨いているあいだは、前に進んでいる気がする。けれど計画は、頭の中の仮説にすぎない。それが合っているかどうかは、動いてみるまで分からない。
「このままで終わりたくない」と思ったらの記事で、3つの姿勢の一つとして「行動優先」を書いた。完璧な計画を待たず、動いて、間違いから学び、直す。この記事では、その一つだけを掘り下げて、なぜ効くのかを6つの研究から確かめてみる。最後に、動かないほうがいい場面も書いておきたい。
行動優先とは何か
やり直せることは、情報がそろう前に動いて、現実から学ぶ。
よく知られた例が、Amazonの行動指針にある「Bias for Action」だ。ビジネスではスピードが大事で、多くの決定や行動はやり直せるのだから、大がかりな検討はいらない、という考え方だ [1]。
ジェフ・ベゾスは2015年の株主への手紙で、決定を2種類に分けた [2]。後戻りできない「一方通行のドア」は、慎重に時間をかけて決める。引き返せる「双方向のドア」は、すばやく決める。そして組織は大きくなるほど、双方向のドアにまで重い手続きを使いがちだ、と書いている。
言葉には少し注意がいる。心理学で「アクション・バイアス(行動の偏り)」と言うと、何もしないほうがよい場面でも動いてしまう偏りのことを指す。ここで言う行動優先は、その偏りをほめるものではない。どこで動くかを見分けたうえでの、方針のことだ。
1. 量をこなすと、質があとからついてくる
『Art & Fear』という本に、陶芸の授業の話が出てくる [3]。先生はクラスを2つに分けた。片方は作品の重さだけで、もう片方は「完璧な1作」の出来だけで評価する。終わってみると、いちばん出来のいい作品は、すべて重さで評価されたほうから出てきた。量のグループは作り続けながら失敗から学び、質のグループは完璧について考えるばかりで、手が止まっていた。
これは実験ではなく逸話だ。共著者のオーランドは、もとは写真の授業で実際にあった話で、本では題材を陶芸に変えたと説明している。だから証拠というより、たとえとして読むのがいいと思う。
それでも、僕には思い当たることが多い。半年かけて渾身の1本を書くより、毎週1本出して反応を見るほうが、半年後の文章はたぶんうまくなっている。
2. 学ぶ速さは、確かめた回数で決まる
動くことのいちばんの価値は、現実から反応が返ってくることだ。
エリック・リースの『リーン・スタートアップ』は、この考えを「つくる→測る→学ぶ」の繰り返しとしてまとめた [4]。最小限の試作品をつくり、反応を測り、学んで直す。この繰り返しをできるだけ速く回すことが目的で、最初の版の出来はそれほど重要ではない。見込み違いは必ず起きる、という前提に立っている。
単純に数えてみる。半年かけて練った計画を1回だけ実行する人は、学ぶ機会が1回。毎週小さく試す人は、およそ26回。1回ごとの学びが小さくても、差は少しずつ開いていく。
3. 計画は、どうせ楽観的にずれる
人の見積もりは、もともと楽観的に偏る。カナダの心理学者ビューラーたちは、卒業論文に取り組む学生37人を追いかけた [5]。予想の平均は33.9日。実際は平均55.5日かかり、自分の予想した日までに終えられたのは3割ほどだった。しかも実際の日数は、学生たちが「最悪の場合」として出した見積もりよりも長かった。研究者はこれを「計画錯誤」と呼んだ。
だとすると、机の上で計画を磨いても、その計画自体が楽観に寄っている。小さく始めて、実際にかかった時間を測るほうが、次の見積もりは正確になる。
ついでに書いておくと、「選択肢が多すぎると決められなくなる」という話もよく引かれる。けれど50の実験をまとめた分析では、平均の効果はほぼゼロで、研究ごとのばらつきが大きかった [6]。迷いが必ず決断を妨げる、とまでは言えないので、この記事では根拠に使わない。
4. 長い目で見ると、しなかったことのほうが残る
ギロビッチとメドヴェックは、後悔には時間の形があると報告した [7]。短いあいだは「やって失敗した」ことのほうが痛む。けれど時間が経つと、その痛みは薄れ、「やらなかった」ことの後悔のほうが残りやすい。
ただ、これには議論もある。カーネマンは、長く残る「やらなかった後悔」の多くは、懐かしさに近いもので、それほど苦しくはないと反論した。その後3人で共同研究をして、やらなかった後悔には、懐かしさに近いものと、絶望に近いものの両方があることを確かめている [8]。
もう少し強い証拠がある。経済学者のレヴィットは、大きな決断に迷っている人にコインを投げてもらい、その後を追いかけた [9]。仕事を辞めるか、関係を終えるか、といった重い決断で、コインに「変える」ほうを示された人は、実際に変化を起こしやすく、半年後の幸福感も高かった。差は10点満点でおよそ0.5点。参加者は自分から応募してきた人たちで、誰にでも当てはまるとは言えない。それでも論文は、人は人生を変える選択に対して慎重すぎるのかもしれない、と結んでいる。
本当に五分五分で迷っているなら、変えるほうに倒してもいい。僕はこの研究を、そのくらいの重さで受け取っている。
5. やる気は、動いたあとに来ることがある
やる気が出てから動く、という順番だけではない。動いた結果として、やる気が出てくることもある。
この順番をいちばん厳しく確かめてきたのは、うつの治療法の一つ「行動活性化」だ。気分を先に変えようとするのではなく、予定した行動をして、その結果に触れることで、気分や意欲が変わるのを待つ。26のランダム化比較試験をまとめた分析では、行動活性化は対照群よりはっきり症状を軽くしていた [10]。
これは治療の研究で、毎日のやる気にそのまま当てはめるのは推測になる。それでも、気分が乗らないときこそ小さく動いてみる、という考えには、研究の裏づけがある。
動き出しを助ける方法としては、「いつ、どこで、何をするか」を一行だけ決めておくやり方がある。94の研究をまとめた分析で、目標の達成を中くらいから大きめに助けていた [11]。ここで言う計画は、完璧な全体の計画ではなく、最初の一歩の引き金のことだ。書き方はこちらの記事(アーカイブ)にまとめた。
6. 先が読めないときは、動くこと自体が情報になる
バージニア大学のサラスバシーは、経験を積んだ起業家たちがどう決めているかを調べた [12]。初心者は先を予測しようとする。熟練した起業家は、予測するより、自分の手の中にあるもので未来をつくろうとしていた。手持ちの資源から始め、得られる利益ではなく「失っても許せる範囲」で考え、思いがけない出来事を機会として使う。彼女はこれを「エフェクチュエーション」と名づけた。
これは、ベゾスの双方向のドアと組み合わせると分かりやすい。失敗しても許せる範囲に収まり、引き返せる。そういう一歩なら、考えるより試したほうが、安くて速い。
動かないほうがいい場面
行動優先は、万能ではない。人には「何かしないと落ち着かない」という偏りもあるからだ。
よく知られているのが、サッカーのペナルティキックの研究だ。286本を調べると、真ん中に残ったときに止められた割合は33.3%で、左右に跳んだときは12.6%と14.2%だった。それでもゴールキーパーは、9割以上の場面で跳んでいた [13]。跳ぶのが当たり前とされているので、動かずに決められるほうが悔しい。だから跳ぶ、という説明だ。この結論には、あとから異論も出ている。それでも、「動いている安心感」と「動くことが合理的かどうか」は別のものだ、ということは残る。
僕は、迷ったときに次のように分けている。
考える前に動いていいとき。あとから直せる。失敗しても許せる範囲に収まる。試して反応を見るほうが速く分かる。確かめたい仮説がある。たとえば、記事を出す、ページの見出しを変えて比べる、新しい習慣を一週間だけ試す。
時間をかけて決めたいとき。元に戻せない。体・信用・大きなお金に関わる。調べれば分かることがある。動きたい理由が「何かしないと不安だから」だけ。たとえば、契約、大きな投資、個人の情報を公開すること。
もう一つ大事なのは、一方通行に見える決断を、小さな双方向の一歩に分けられないか考えることだ。「転職する」は重い。でも「その業界の人に話を聞いてみる」は、今日でもできる。決められないときの考え方は、キルケゴールの記事にも書いた。
待つことにも、コストがある
行動優先は、無謀に動くことではないと思う。やり直せることは、考えるより試して学ぶ。やり直せないことだけは、時間をかけて決める。その使い分けのことだ。
取り返しのつく一歩は、考えすぎる前に。
ずれていたら、直せばいい。
完璧な計画を待つ時間も、何もしていないわけではない。そのあいだに、試せたはずの回数が過ぎていく。
あなたがいま「もう少し調べてから」と止めているものは、本当に一方通行のドアだろうか。
参考
1. Amazon. Leadership Principles.(Bias for Action)
2. Bezos, J. P. (2016). 2015 Letter to Shareholders. Amazon.com, Inc.
3. Bayles, D., & Orland, T. (1993). Art & Fear: Observations on the Perils (and Rewards) of Artmaking. Capra Press.
4. Ries, E. (2011). The Lean Startup. Crown Business.(邦訳『リーン・スタートアップ』日経BP)
5. Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). Exploring the "planning fallacy": Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366–381.
6. Scheibehenne, B., Greifeneder, R., & Todd, P. M. (2010). Can there ever be too many options? A meta-analytic review of choice overload. Journal of Consumer Research, 37(3), 409–425.
7. Gilovich, T., & Medvec, V. H. (1995). The experience of regret: What, when, and why. Psychological Review, 102(2), 379–395.
8. Gilovich, T., Medvec, V. H., & Kahneman, D. (1998). Varieties of regret: A debate and partial resolution. Psychological Review, 105(3), 602–605.
9. Levitt, S. D. (2021). Heads or tails: The impact of a coin toss on major life decisions and subsequent happiness. The Review of Economic Studies, 88(1), 378–405.
10. Ekers, D., Webster, L., Van Straten, A., Cuijpers, P., Richards, D., & Gilbody, S. (2014). Behavioural activation for depression; an update of meta-analysis of effectiveness and sub group analysis. PLoS ONE, 9(6), e100100.
11. Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119.
12. Sarasvathy, S. D. (2001). Causation and effectuation: Toward a theoretical shift from economic inevitability to entrepreneurial contingency. Academy of Management Review, 26(2), 243–263.
13. Bar-Eli, M., Azar, O. H., Ritov, I., Keidar-Levin, Y., & Schein, G. (2007). Action bias among elite soccer goalkeepers: The case of penalty kicks. Journal of Economic Psychology, 28(5), 606–621.