「このままで終わりたくない」
と思ったら。
と
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「このままで終わりたくない」と思う夜がある。
動画を開くと、「ほとんどの人は平凡なまま終わる」と言われる。少し焦って、少し腹が立って、それでも最後まで見てしまう。
先日見た動画も、そんな一本だった。平凡から抜け出すために必要なのは3つだという。夢中になれるものを持つこと。人の目を気にしないこと。考える前に動くこと。そして最後に、それを「自分はこういう人間だ」というところに結びつけること。
僕はこの組み立てを、いいと思った。ただ、言い方をそのまま受け取ると、かえって苦しくなる部分もある。「ほとんどの人は平凡だ」と言われても、あなたの夜が楽になるわけではない。
だからここでは、3つを僕の言葉に置き直して、研究で一つずつ確かめてみたい。
没頭——知りたくて仕方がないことを持つ
努力しなければ続かないことではなく、知りたくて仕方がないことを持つ。
動画では「オブセッション(とりつかれること)」と呼んでいた。ただの献身や努力ではなく、自然にわいてくる知的な好奇心のことだという。たとえばギターに夢中になった人は、スケールやコードをいくつか覚えたところで満足しない。あらゆるジャンル、あらゆる曲、あらゆる弾き方を、隅から隅まで知りたくなる。誰かに言われたからではなく、ただ知りたいからだ。
夢中になると、意志の力にも規律にも頼らなくてよくなる、とも言っていた。夜中の3時にやる気の出る動画を見て、少し気持ちが上がった勢いで腕立て伏せを20回する。そういうやる気の話ではない、と。そして、こうも言っていた。何かに夢中になれば、成功はその副産物になる。動画の中で、僕にいちばん残った一文だ。
同じことを、ずっと前に書いた人がいる。強制収容所を生きのびた精神科医、ヴィクトール・フランクルだ。『夜と霧』の英語版の序文で、彼は学生たちにこう伝えている [1]。
成功を狙ってはいけない。狙えば狙うほど、外れる。成功は追いかけるものではなく、自分より大きな何かに打ち込んだ結果として、意図せず生まれてくるものだ。 ——『夜と霧』英語版 1992年版の序文(要約・僕の訳)
研究でも、その道すじの一部は見えている。バスケットボールの高校生184人などを調べた研究では、打ち込む気持ちが強い選手ほど、うまくなるための練習を多く重ね、その練習が実際の成績につながっていた [2]。
カナダの心理学者ヴァレランたちは、何かに打ち込む気持ちを2つに分けた [3]。自分で選んで楽しめている「調和的な情熱」と、やめたくてもやめられない、内側から追い立てられる「強迫的な情熱」だ。どちらも熱心に見える。けれど調和的な情熱はよい適応と結びつき、強迫的な情熱は嫌な気分や、状況が悪くても続けてしまう硬さと結びついていた [3]。94の研究をまとめた分析でも、調和的な情熱は没頭している感覚(フロー)や成果と結びつき、強迫的な情熱は、よい面とともに考え込みのような悪い面とも結びついていた [4]。
先ほどの選手の研究でも、2種類のどちらの情熱でも練習は増え、成績につながっていた。違いが出たのは、そのあいだの気持ちだ。調和的な情熱は幸福感と結びつき、強迫的な情熱は結びついていなかった [2]。
だから僕は、「夢中になれば、成功は副産物になる」を、約束ではなく道すじとして受け取っている。成功を目当てに夢中を演じても、たぶん続かない。動画の言う「意志に頼らない夢中」は、どちらかといえば調和的なほうに近いと思う。確かめたいのは、熱の大きさより、その手触りだ。休みたい日に、休めるかどうか。
もう一つ、動画には大事な一言があった。夢中になる力は、生まれつき持っているかどうかで決まるものではなく、育てられる、というものだ。これは研究とも重なる。スタンフォード大学のオキーフたちは、「好きなことは見つけるものだ」と考える人と「育てるものだ」と考える人を比べた [5]。「見つけるもの」と考える人ほど、いまの関心の外にある分野への興味が薄く、新しく興味を持ったことでも、難しくなると、興味を失いやすかった。
まだ夢中になれるものがなくても、遅れているわけではないのかもしれない。少し気になることを、少しだけ深く知ってみる。夢中は、そこから育っていく。
あなたがいま、知りたくて仕方がないことは何だろう。それは、やめたいときにやめられるものだろうか。
他人の評価からの自由——どう見られるかではなく、どう生きたいかで決める
どう見られるかではなく、自分がどう生きたいかで決める。
動画は「人がどう思うかなんて、頭に入れるな」と言っていた。それができたら苦労しない、と僕は思う。人の目が気になるのは、性格が弱いからではないからだ。
代わりに役に立ったのは、こんな研究だった。コーネル大学のギロビッチたちは、学生に目立つTシャツを着てもらい、ほかの学生がいる部屋に入ってもらった [6]。着た本人は、部屋のおよそ半分の人が気づいたと予想した。実際に気づいていたのは、4分の1ほどだった。人は、自分がどれだけ見られているかを、実際よりかなり大きく見積もる。研究者はこれを「スポットライト効果」と呼んだ。
人の目を消すことはできなくても、「思っているほど見られていない」と知ることはできる。そうすると、決めるときの物差しを、少しずつ自分の側へ戻せる。
動画は、SNSやニュースのような、外から入ってくる声のことにも触れていた。全部を遮断しなくても、量を減らすことはできる。SNSに使う時間を減らした実験のことは、こちらの記事(アーカイブ)に書いた。
誰にも評価されないとしたら、あなたは何を選びたいだろう。頭の中の「すべき」が誰の声なのかは、ニーチェの記事に書いた。
行動優先——完璧な計画を待たず、動いて、直す
完璧な計画を待たず、動いて、間違いから学び、修正する。
この節で、僕にいちばん残った言葉はこれだ。「知っている」と「実際にやる」のあいだには、溝がある。何をすればいいか分かっているのに、調べ続けて一歩も出ないことは、僕にもある。
動画はさらに、「頭がいい人ほど、自分で障害物をつくってしまう」と言っていた。頭の良さがそのまま成功につながるなら、いちばん成功している人は、いちばん頭のいい人のはずだ、と。研究を見ると、半分はそのとおりだ。若いころに測った知能は、のちの学歴や職業とはわりと強く結びついていたが、収入との相関は0.2前後にとどまっていた [7]。考える力は役に立つ。でも、それだけで足りるわけではない。
動画は「計画は、先延ばしの変装だ」「止まっているより、間違った方向へ全速力で走るほうがいい」とも言っていた。止まっているより、動いて間違いに気づくほうがいい、というところは、そのとおりだと思う。
ただ、心理学で「アクション・バイアス(行動の偏り)」と言うと、少し違う意味になる。何もしないほうがよい場面でも、動いてしまう偏りのことだ。サッカーのペナルティキック286本を調べた研究では、ゴールキーパーはほとんどの場合、左右どちらかに跳んでいた。けれどこの分析では、真ん中に残ったときのほうが止められる割合が高かった [8]。跳ばずに決められると、何もしなかったように見えて悔しい。だから跳ぶ、という説明だ(この結論には、あとから異論も出ている)。
計画についても、大きな計画と小さな計画は分けて考えたい。「Xが起きたら、Yをする」と一行だけ決めておく方法は、94の研究をまとめた分析で、目標の達成を中くらいから大きめに助けていた [9]。人を止めているのは、計画そのものより、完璧な計画ができるのを待つことなのかもしれない。
だから僕は、こう分けている。取り返しのつく小さな一歩は、考えすぎる前に出す。ずれていたら直す。取り返しのつかないことだけは、時間をかけて決める。
行動優先がなぜ効くのか、どんなときは動かないほうがいいのかは、「完璧な計画を待たないほうがいい理由」で研究を一つずつ確かめた。決められないときの考え方はキルケゴールの記事に、一行の計画のつくり方はこちらの記事(アーカイブ)に書いた。
「何をするか」より「どんな人でありたいか」
動画の最後は、3つを「自分はこういう人間だ」に結びつける、という話だった。何十年もの研究がそれを示している、とも言っていた。ここは少し言い過ぎだと思う。
よく知られているのは、アメリカの選挙での実験だ。「投票しますか」ではなく「投票する人(投票者)になりますか」と名詞で聞いたほうが、実際の投票率が上がった [10]。ただ、より大きな規模で試した別の実験では、差は見られなかった [11]。いまも議論が続いている。
言葉を一つ変えるだけで行動が変わる、とまでは言えない。それでも僕は、「どんな人間でありたいか」を先に決めておくことは、迷ったときの物差しになると思っている。そのことは「あなたはどんな人間になりたいですか?」(アーカイブ)に書いた。
知りたくて仕方がないことを、一つ。
思っているほど、見られていない。
取り返しのつく一歩を、今日。
動画の最後は、「この動画を、いつもの、一瞬やる気が出るだけの動画で終わらせないでほしい」という言葉だった。この記事も、読んで終わりにしなくていい。3つとも、強い人だけのものではないと思う。どれからでもいい。
あなたにいちばん近いのは、どれだろう。
参考
1. Frankl, V. E. (1992). Man's Search for Meaning: An Introduction to Logotherapy (4th ed.). Beacon Press. Preface to the 1992 edition.(邦訳『夜と霧』は別の版からの訳で、この序文は含まれない場合がある)
2. Vallerand, R. J., Mageau, G. A., Elliot, A. J., Dumais, A., Demers, M.-A., & Rousseau, F. (2008). Passion and performance attainment in sport. Psychology of Sport and Exercise, 9(3), 373–392.
3. Vallerand, R. J., Blanchard, C., Mageau, G. A., et al. (2003). Les passions de l'âme: On obsessive and harmonious passion. Journal of Personality and Social Psychology, 85(4), 756–767.
4. Curran, T., Hill, A. P., Appleton, P. R., Vallerand, R. J., & Standage, M. (2015). The psychology of passion: A meta-analytical review of a decade of research on intrapersonal outcomes. Motivation and Emotion, 39(5), 631–655.
5. O'Keefe, P. A., Dweck, C. S., & Walton, G. M. (2018). Implicit theories of interest: Finding your passion or developing it? Psychological Science, 29(10), 1653–1664.
6. Gilovich, T., Medvec, V. H., & Savitsky, K. (2000). The spotlight effect in social judgment: An egocentric bias in estimates of the salience of one's own actions and appearance. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 211–222.
7. Strenze, T. (2007). Intelligence and socioeconomic success: A meta-analytic review of longitudinal research. Intelligence, 35(5), 401–426.
8. Bar-Eli, M., Azar, O. H., Ritov, I., Keidar-Levin, Y., & Schein, G. (2007). Action bias among elite soccer goalkeepers: The case of penalty kicks. Journal of Economic Psychology, 28(5), 606–621.
9. Gollwitzer, P. M., & Sheeran, P. (2006). Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Advances in Experimental Social Psychology, 38, 69–119.
10. Bryan, C. J., Walton, G. M., Rogers, T., & Dweck, C. S. (2011). Motivating voter turnout by invoking the self. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(31), 12653–12656.
11. Gerber, A. S., Huber, G. A., Biggers, D. R., & Hendry, D. J. (2016). A field experiment shows that subtle linguistic cues might not affect voter behavior. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113(26), 7112–7117.