ドーパミンを「受け取る側」の話。D2受容体は、環境で変わる
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ドーパミンは「快感物質」と呼ばれることが多い。でも、ドーパミンが出るだけでは何も起きません。受け取る側、つまり受容体があって、はじめて信号になります。
QUIZ群れの中で優位になったサルでは、ドーパミンを受け取るD2受容体が増えた。答えを見る
○。劣位のサルでは変わらなかった。
1頭ずつ飼っていたときは差がなかった。グループで暮らし始めると、優位になったサルでD2受容体が増えた。
その受け取る側の一つが、D2受容体です。調べてみると、D2受容体は生まれつき決まっているだけのものではなく、眠り方や置かれた環境で変わることを示す研究がありました。
目次
D2受容体とは何か
ドーパミンの受容体には5つの種類があり、大きく2つのグループに分けられます。D1とD5の「D1型」と、D2・D3・D4の「D2型」です [1]。
| グループ | 受容体 | 細胞の中での働き |
|---|---|---|
| D1型 | D1、D5 | 細胞の中の信号(アデニル酸シクラーゼという酵素)を強める |
| D2型 | D2、D3、D4 | 同じ酵素の働きを抑える |
D2受容体は、動き、やる気、報酬などに関わる脳の部位に多くあり、医療でも重要な標的になっています [1]。たとえば統合失調症の治療に使われる抗精神病薬の多くは、D2受容体をふさぐ働きを持っています。
初めて統合失調症と診断された22人に、抗精神病薬(ハロペリドール)を使った研究では、D2受容体がふさがれている割合が65%を超えると治療への反応が出やすくなり、72%を超えるとホルモン(プロラクチン)が上がりやすく、78%を超えると体のこわばりなどの副作用が出やすくなりました [2]。受け取る側を少しふさぐか、ふさぎすぎるかで、結果が変わるということです。
ドーパミンは「快感」より「欲しい」
「ドーパミン=気持ちいい」というイメージは、研究者の間では見直されています。
ベリッジとロビンソンは、ラットの脳のドーパミンを最大99%まで減らしても、甘いものを口にしたときの「おいしい」という反応は残ることなどから、ドーパミンが担っているのは「好き(liking)」ではなく「欲しい(wanting)」だと論じました [3]。
POINT
ドーパミンは、手に入れたときの喜びより、「あれが欲しい」と手を伸ばさせる力に近い。
つい通知を開いてしまう、つい次の動画を見てしまう。あの感覚は「楽しい」より「欲しい」に近いのかもしれません。快感と依存の仕組みは、『快感回路』の紹介でも書いています。
D2が少ないと、刺激を求めやすいのか
D2受容体の量(正確には、測定できる受容体の量)と、行動の関係を調べた研究があります。
薬物の使用歴のない健康な男性23人に、覚醒作用のある薬(メチルフェニデート)を注射した研究では、その効き目を「心地よい」と感じた人ほどD2受容体が少なく、多い人ほど「不快」と感じていました [4]。著者らは、D2受容体の刺激には心地よく感じる「ちょうどいい範囲」があり、少なすぎても多すぎても心地よくないのではないかと考えています。
重い肥満の人10人を調べた研究では、D2受容体が肥満でない人より少なく、肥満の人の中ではBMIが高い人ほど少ないという関係が見られました [5]。
ラットの実験では、高脂肪でおいしい餌を長く自由に食べられるようにすると、太ったラットでD2受容体が減り、罰の合図があっても食べ続ける行動が見られました。さらにD2受容体を人工的に減らすと、こうした行動が早く現れました [6]。
ただし、人の研究は少人数で、一時点を比べたものです。D2受容体が少ないから食べすぎるのか、食べすぎた結果として減ったのかは、人の研究からは分かりません。
QUIZ一晩眠らなかった翌日、報酬に関わる部位のD2受容体が減っていた研究がある。答えを見る
○。眠気の強さと関係していた。
健康な20人を、よく眠った翌日と徹夜の翌日で比べた研究。腹側線条体のD2受容体が減っていた。
順位で増え、徹夜で減る
僕がいちばん驚いたのは、D2受容体が環境で変わることを示した研究です。
20頭のサルを、はじめは1頭ずつ、その後グループで飼って調べた研究では、1頭ずつ飼っていたときにはD2受容体に差はありませんでした。ところがグループで暮らし始めると、群れの中で優位になったサルではD2受容体が増え、劣位のサルでは変わりませんでした。そして、自分でレバーを押してコカインを摂取する行動が続いたのは、劣位のサルのほうでした [7]。
人でも、環境で変わることを示す研究があります。健康な20人を、よく眠った翌日と、一晩眠らなかった翌日で比べた研究では、徹夜のあとに、報酬に関わる部位(腹側線条体)のD2受容体が減っていて、その減り方は眠気の強さと関係していました [8]。
寝不足の日に、甘いものや画面に手が伸びやすい。その理由を、この研究だけで説明することはできません。でも、受け取る側の状態も一晩で変わりうる、というのは覚えておいていいことだと思います。睡眠については「寝だめ」の記事にも書いています。
研究を読むときの注意
- 人のD2受容体は、PETという画像検査で測っています。この方法は、受容体の数だけでなく、その場にあるドーパミンの量にも影響されます。そのため研究者自身も、「受容体の量」ではなく「測定できる受容体の量」と呼ぶべきだとしています [4]
- サルやラットの結果が、そのまま人に当てはまるとは限りません
- 「D2受容体を増やす食べ物」や「ドーパミンを整えるサプリ」のような話を、ここで紹介した研究は支持していません
- 抗精神病薬などの治療薬について気になることがあるときは、自己判断で量を変えず、主治医に相談してください
参考文献
1. Beaulieu, J.-M., & Gainetdinov, R. R. (2011). The physiology, signaling, and pharmacology of dopamine receptors. Pharmacological Reviews, 63(1), 182–217.
2. Kapur, S., Zipursky, R., Jones, C., Remington, G., & Houle, S. (2000). Relationship between dopamine D2 occupancy, clinical response, and side effects: a double-blind PET study of first-episode schizophrenia. American Journal of Psychiatry, 157(4), 514–520.
3. Berridge, K. C., & Robinson, T. E. (1998). What is the role of dopamine in reward: hedonic impact, reward learning, or incentive salience? Brain Research Reviews, 28(3), 309–369.
4. Volkow, N. D., Wang, G.-J., Fowler, J. S., et al. (1999). Prediction of reinforcing responses to psychostimulants in humans by brain dopamine D2 receptor levels. American Journal of Psychiatry, 156(9), 1440–1443.
5. Wang, G.-J., Volkow, N. D., Logan, J., et al. (2001). Brain dopamine and obesity. The Lancet, 357(9253), 354–357.
6. Johnson, P. M., & Kenny, P. J. (2010). Dopamine D2 receptors in addiction-like reward dysfunction and compulsive eating in obese rats. Nature Neuroscience, 13(5), 635–641.
7. Morgan, D., Grant, K. A., Gage, H. D., et al. (2002). Social dominance in monkeys: dopamine D2 receptors and cocaine self-administration. Nature Neuroscience, 5(2), 169–174.
8. Volkow, N. D., Tomasi, D., Wang, G.-J., et al. (2012). Evidence that sleep deprivation downregulates dopamine D2R in ventral striatum in the human brain. Journal of Neuroscience, 32(19), 6711–6717.
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