5α-リダクターゼとDHT。育毛・筋肉・性欲と、AGA(薄毛)の関係を研究で整理する
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DHT(ジヒドロテストステロン)は、薄毛の原因として知られる男性ホルモンです。一方で、「筋肉や性欲にも必要」とも言われます。DHTをつくる酵素、5α-リダクターゼの話から、研究で分かっていることを整理します。
QUIZテストステロンで筋肉が増えるには、DHTへの変換が欠かせない。答えを見る
×。DHTを減らしても差はなかった。
男性139人の20週間の試験。DHTをつくらせない薬を飲んでも、筋肉、筋力、性機能の増え方に差はなかった。
目次
5α-リダクターゼとDHTとは
5α-リダクターゼ(5α還元酵素)は、テストステロンを、より強い働きを持つジヒドロテストステロン(DHT)に変える酵素です。コレステロールからテストステロン、DHTができる流れは、チロシンとアンドロゲンの記事に図で書いています。
DHTの働き:よく言われることと、研究で分かっていること
DHTについては、「育毛、筋肉、性欲、認知に関わる一方で、AGAの原因にもなる」という説明をよく見かけます。研究と照らし合わせると、次のように整理できます。
| よく言われること | 研究で分かっていること |
|---|---|
| 体毛やひげ | 関わる。ただし頭の毛には逆に、AGAの原因として働く |
| 前立腺 | 関わる。DHTがないと前立腺が小さかった |
| 筋肉 | DHTへの変換は、筋肉を増やすのに必須ではなかった |
| 性欲 | DHTを減らした試験で、性機能に差は出なかった。ただし薬の副作用として性機能の低下が少し増える |
| 認知 | 人ではっきりした研究は見つからなかった |
つまり、「筋肉や認知にDHTが欠かせない」とまでは、研究からは言えません。
5α-リダクターゼがない人たちから分かったこと
1974年、ドミニカ共和国のある村で、5α-リダクターゼが生まれつき働かない男性たちが報告されました。DHTがほとんどつくられないため、生まれたときは外性器が女性のように見え、思春期にテストステロンが増えると男性の体に変わっていきました。この人たちは前立腺が小さく、男性型の脱毛が見られないことが注目されました [1]。
この発見が、のちにDHTを減らす薬(フィナステリド)の開発につながりました。
筋肉にDHTは必要か
18〜50歳の健康な男性139人で、もともとのテストステロンを止めたうえで、量を変えたテストステロンを20週間与え、半分の人にはDHTをつくらせない薬(デュタステリド)を一緒に飲んでもらった試験があります。
結果、DHTを減らしても、筋肉(除脂肪量)の増え方、筋力、性機能に差はありませんでした。著者らは、テストステロンが筋肉を増やすのに、DHTへの変換は必須ではないと結論づけています [2]。
POINT
筋肉を増やしているのは、おもにテストステロンそのもの。DHTではなかった。
AGA(男性型脱毛症)とDHT
AGA(男性型脱毛症)では、DHTの影響で頭頂部や生え際の毛が細く短くなり、薄くなっていきます。日本皮膚科学会の診療ガイドライン(2017年版)では、男性のAGAに対して、DHTを減らす飲み薬のフィナステリドとデュタステリド、塗り薬のミノキシジルが、いずれも最も強く勧められる治療(推奨度A)とされています [3]。ガイドラインは2023年に改訂されているので、最新の推奨は皮膚科で確認してください。
QUIZ若くして始まる薄毛のなりやすさには、母方から受け継ぐ遺伝子が大きく関わっている。答えを見る
○。アンドロゲン受容体の遺伝子。
この遺伝子はX染色体にあり、母方から受け継ぐ。早く始まるAGAの最も大きな遺伝の要因とされた。
「感受性が高い人」とは:カギは受容体の遺伝子
「頭皮の5α-リダクターゼの感受性が高い人は注意」という言い方をよく見かけます。でも研究では、AGAになりやすいかどうかに大きく関わっているのは、DHTを受け取る側、つまりアンドロゲン受容体の遺伝子です。
40歳未満で薄毛が始まったドイツの男性296人などを調べた研究では、アンドロゲン受容体の遺伝子の違いが、早く始まるAGAの最も大きな遺伝の要因で、その寄与は約46%と見積もられました。この遺伝子はX染色体にあるので、母方から受け継ぐことも示されています [4]。
家族、特に母方の家系に早くから薄くなった男性がいる人は、早めに気づいて相談するほうが、選べる治療が多くなります。
薬でDHTを減らす:効果と副作用
18〜41歳の男性1,553人を対象にした試験では、フィナステリド1mgを飲んだ人は、偽薬の人に比べて、頭頂部の1インチの円の中の髪が、1年で107本、2年で138本多くなっていました。偽薬の人は、だんだん薄くなっていきました [5]。
副作用としては、15の試験(4,495人)をまとめた分析で、フィナステリドを飲んだ人では、性機能の低下(勃起障害、性欲の低下など)の起こりやすさが、偽薬の約1.66倍でした [6]。頻度は高くありませんが、知ったうえで医師と相談して決めることが大切です。
まとめ
- 5α-リダクターゼは、テストステロンをDHTに変える酵素
- DHTは前立腺や体毛に関わり、頭の毛ではAGAの原因として働く
- 筋肉を増やすのに、DHTへの変換は必須ではなかった。性機能にも差は出なかった
- AGAのなりやすさに大きく関わるのは、DHTを受け取るアンドロゲン受容体の遺伝子(母方から受け継ぐ)
- フィナステリドで髪は増えたが、性機能の副作用が少し増える
薄毛が気になるときは、皮膚科や専門の医療機関で相談してください。個人輸入の薬を自己判断で使うのはやめましょう。テストステロン全体の話はテストステロンの記事に書いています。
参考文献
1. Imperato-McGinley, J., Guerrero, L., Gautier, T., & Peterson, R. E. (1974). Steroid 5α-reductase deficiency in man: an inherited form of male pseudohermaphroditism. Science, 186(4170), 1213–1215.
2. Bhasin, S., Travison, T. G., Storer, T. W., et al. (2012). Effect of testosterone supplementation with and without a dual 5α-reductase inhibitor on fat-free mass in men with suppressed testosterone production: a randomized controlled trial. JAMA, 307(9), 931–939.
3. 日本皮膚科学会. 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版. 日本皮膚科学会雑誌, 127(13), 2017.
4. Hillmer, A. M., Hanneken, S., Ritzmann, S., et al. (2005). Genetic variation in the human androgen receptor gene is the major determinant of common early-onset androgenetic alopecia. American Journal of Human Genetics, 77(1), 140–148.
5. Kaufman, K. D., Olsen, E. A., Whiting, D., et al. (1998). Finasteride in the treatment of men with androgenetic alopecia. Journal of the American Academy of Dermatology, 39(4), 578–589.
6. Lee, S., Lee, Y. B., Choe, S. J., & Lee, W. S. (2019). Adverse sexual effects of treatment with finasteride or dutasteride for male androgenetic alopecia: a systematic review and meta-analysis. Acta Dermato-Venereologica, 99(1), 12–17.
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