2026.10.09 / BODY / MIND

「意志力は使うと減る」は本当か。エゴ枯渇とうつの関係を研究で確かめる

約6分で読めます(目安)

我慢を続けると、意志力が尽きて、やる気も気分も落ちていく。そんな説を見かけます。研究を確かめると、出発点の「意志力は使うと減る」そのものが、大規模な追試で揺らいでいました。

QUIZ1998年の有名な実験では、クッキーを我慢した人ほど、そのあと解けないパズルを長く粘った。答えを見る

×。約8分で早くあきらめた。

クッキーを食べてよかった人は約19分粘った。ここから「意志力は使うと減る」という説が広まったが、のちの大規模な追試では効果がほぼ見られなかった。

目次

「意志力は使うと減る」という説

我慢をすると、意志力がすり減る。すり減ると、次の我慢ができなくなる。この考え方は「エゴ枯渇(ego depletion)」と呼ばれ、心理学者のバウマイスターらが1998年に発表した実験から広まりました [1]。

その実験では、焼きたてのクッキーを前にしながら、代わりにラディッシュを食べるよう言われた人たちが、そのあと解けないパズルを約8分であきらめました。クッキーを食べてよかった人たちは約19分粘り、何も食べなかった人たちと同じくらいでした [1]。

ここから、「意志力は筋肉のように疲れる、限りある資源だ」という説が生まれました。さらに、「意志力が慢性的に減った状態が、絶望感やうつにつながるのではないか」という話にも広がっています。

23の研究室で試すと、効果はほぼゼロだった

ところが、この効果は再現が難しいことが分かってきました。2016年、23の研究室が同じ手順でエゴ枯渇の実験を行い、合わせて2,141人の結果をまとめた大規模な追試があります [2]。

結果、効果の大きさは d = 0.04。95%信頼区間(−0.07〜0.15)はゼロをまたいでいて、ほぼ効果がないという結果でした [2]。

POINT

「意志力は使うと減る」は、有名だが、確かめ直すと見えにくくなった説だ。

この追試には、「使った課題が十分に疲れさせるものではなかった」などの反論もあります。それでも、少なくとも「誰にでもはっきり起きる現象」とは言えなくなりました。習慣を変えたいときに読む本でも、この説は言い切らずに読みたいと書きました。

「疲れると未来が暗く見える」という小さな実験

エゴ枯渇と絶望感を結びつけた研究としてよく挙げられるのが、アメリカの大学の学部生向け心理学誌に載った実験です。大学生81人の半分に、意志力を使わせる読み物の課題をしてもらい、そのあと将来の出来事をどう見積もるかの質問に答えてもらいました。疲れさせたグループのほうが、将来を悲観的に見る点数になっていました(p < .044) [3]。

ただし、これは81人、1回だけの小さな実験で、統計的にもぎりぎりの結果です。そのうえ、土台のエゴ枯渇そのものが、上の追試で揺らいでいます。「意志力が減ると絶望する」と言えるほどの証拠ではありません。

QUIZ会社員490人の調査で、ながらスマホが多い人ほど、うつの傾向が強かった。答えを見る

○。ただし相関。

間を「疲れて自分をコントロールできない感じ」がつないでいた。1回のアンケートなので、ながらスマホがうつを引き起こしたとは言えない。

会社員490人の調査:ながらスマホ、疲れ、うつ

もう一つ、2023年に中国の国有企業の会社員490人に行った調査があります。仕事中に複数のメディアを同時に使う「ながら(メディア・マルチタスク)」が多い人ほど、うつの傾向が強く、その間を「疲れて自分をコントロールできない感じ(エゴ枯渇)」がつないでいました。また、もともと自制心が強い人では、その疲れとうつの結びつきが弱くなっていました [4]。

ただしこれは、1回のアンケートで同時に測った相関です。ながらスマホや疲れがうつを引き起こした、とまでは言えません。うつの人がそもそも疲れを強く感じたり、集中しにくかったりする可能性もあります。

疲れやすさには、個人差があるという見方

エゴ枯渇の研究からは、「疲れやすさには個人差がある」という見方も出ています。オランダの研究者たちは、意志力を使う課題でどれだけ消耗しやすいかを測る質問票をつくり、消耗しやすい人ほど、2つ目の課題の成績が下がりやすかったと報告しました [5]。

みんなに同じように起きるわけではなく、起きやすい人と起きにくい人がいるのかもしれない。追試で平均の効果が小さく見えた理由の一つとして、考えられている見方です。

まとめ:「意志力」ではなく、疲れと気分を分けて扱う

だから僕は、「意志力が足りないから落ち込む」とは考えないことにしています。疲れているなら休む。仕組みで我慢の回数を減らす。気分の落ち込みが続くなら、それは意志力の問題ではなく、医療機関で相談する問題として扱う。分けて考えたほうが、ずっと楽になります。

我慢を減らす仕組みについては習慣は「文脈」に紐づくとif-thenルール、スマホの時間についてはSNSを見る時間は、減らしたほうがいいのかもどうぞ。

参考文献

1. Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Muraven, M., & Tice, D. M. (1998). Ego depletion: Is the active self a limited resource? Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1252–1265.

2. Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., et al. (2016). A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546–573.

3. Olsen, A. J., Tortosa, M., & Wintch, P. H. Ego depletion: A contributing factor of hopelessness depression. Intuition: The BYU Undergraduate Journal of Psychology, 3(1).

4. Cui, W.-W., Tao, T., Fan, C.-L., Wang, L.-G., & Gao, W.-B. (2023). Media multitasking, ego depletion, and employee depression: Self-control as a moderator. Social Behavior and Personality, 51(1), e12094.

5. Salmon, S. J., Adriaanse, M. A., De Vet, E., Fennis, B. M., & De Ridder, D. T. D. (2014). "When the going gets tough, who keeps going?" Depletion sensitivity moderates the ego-depletion effect. Frontiers in Psychology, 5, 647.

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