反省するほど、
動けなくなるのは
なぜだろう。
動けなくなるのは
なぜだろう。
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夜、布団に入ってから、今日できなかったことを数える。
朝のうちに片づけるはずだった作業。行けなかったジム。また遅くまで見てしまった動画。一つ思い出すと、次が出てくる。先週のことも、先月のことも。
数え終わるころには、「自分はやっぱりダメだ」という結論にたどり着いている。明日こそちゃんとしよう、と決めて目を閉じる。
けれど翌朝、体はむしろ重い。昨日決めたはずのことに、手がつかない。そして夜になると、また同じように数えている。
反省しているつもりだった。反省は、いいことのはずだった。
それなのに、反省するほど動けなくなっていくのは、なぜだろう。
レンズを磨いていた哲学者
17世紀のオランダに、この問いに正面から答えた人がいる。1632年にアムステルダムで生まれた、バルーフ・デ・スピノザだ [2]。
23歳のとき、育ったユダヤ人の共同体から破門された。その後はレンズを磨く仕事をしながら、友人たちと手紙をやりとりし、静かに考え続けた。代表作の『エチカ』は、彼が44歳で亡くなった1677年に、遺稿として出版されている [2]。
『エチカ』は、人間の感情を、数学の図形のように定義と定理で扱った本だ。その第3部に、こんな定理がある。
心は、自分の無力を思い浮かべるとき、そのことで悲しむ。 ——『エチカ』第3部定理55(僕の訳)[1]
「悲しみ」は、力が小さくなること
スピノザの言う「悲しみ」は、涙が出るような気持ちだけを指していない。彼は、心がより小さな完全性へ移っていくときの感情を「悲しみ」と呼び、より大きな完全性へ移っていくときの感情を「喜び」と呼んだ(第3部定理11の備考、要約)[1]。
僕はこの「完全性」を、ものごとをなす力、動ける力のことだと読んでいる。悲しみとは、動ける力が小さくなっていくときの感じだ。
そう読むと、夜の「できなかったこと数え」が何をしているのかが見えてくる。一つ数えるたびに、自分の無力を思い浮かべている。思い浮かべるたびに、少しずつ悲しみが来る。つまり、動ける力が少しずつ小さくなっていく。翌朝の体が重いのは、気のせいではないのかもしれない。
スピノザは同じ定理の備考で、自分の弱さを思うことからくるこの悲しみに、「謙遜(humilitas)」という名前を付けている [1]。そして第4部で、はっきりこう書いた。
謙遜は徳ではない。つまり、理性から生まれるものではない。 ——『エチカ』第4部定理53(僕の訳)[1]
自分を低く見ることは、美徳と考えられることも多い。だから、この一文は少し意外に聞こえるかもしれない。(スピノザ自身も、理性に従って生きることの少ない多くの人にとっては、謙遜にも役に立つ面がある、と付け加えている。第4部定理54の備考、要約 [1])
責めている時間は、
力が減っていく時間
かもしれない。
数えるなら、できたことも
とはいえ、スピノザは「自分をすごいと思え」と言っているわけではない。ひどく思い上がることも、ひどく自分を卑下することも、どちらも自分をひどく知らないことだ、と書いている(第4部定理55、要約)[1]。
だから、ここで大事なのは、自分を正確に見ることなのだと思う。できなかったことだけを数えるのは、正確ではない。今日、できたことも、たぶんあったはずだ。
スピノザは、心が自分自身と自分の動ける力を思い浮かべるとき、心は喜ぶ、それもはっきり思い浮かべるほど喜ぶ、と書いている(第3部定理53、要約)。そして心は、もともと自分の動ける力を確かめるようなことを、思い浮かべようとする(第3部定理54、要約)[1]。
夜にできなかったことばかり数えてしまうのは、心のその自然な向きに、逆らっているのかもしれない。
試すなら、夜に一つだけ、できたことを書いてみる。大きなことでなくていい。「朝、5分だけ机に向かった」「断りたかった誘いを、一つ断った」。気分を上げるためというより、自分を正確に見るために。
ただ、これで全部が片づくわけではない。気分が落ちる日は、また来る。その日に、なぜ全部やめてしまうのか。感情は、意志の力で止められるのか。落ちた日から、どうやって小さな一回へ戻るのか。ここから先の具体的な道すじは、『エチカ』のほかの定理と書き込みワークにして、次にまとめた。
1-minute work
1分だけ、書いてみる
できなかったことを数えたあとで、一つだけ、できたことも数えてみる。大きなことでなくていい。
- 今日、できなかったのは____だ。
- それでも今日、できたのは____だ。
紙かスマホのメモに。正解はないし、書けないところは空けたままでいい。
参考
1. Spinoza, B. de (1677). Ethica, ordine geometrico demonstrata(『エチカ』). Opera Posthuma(遺稿集)所収. 第3部 定理11の備考、定理53、定理54、定理55とその備考/第4部 定理53、定理54の備考、定理55. 英訳:The Collected Works of Spinoza, Vol. 1, trans. E. Curley, Princeton University Press, 1985. 邦訳に畠中尚志訳(岩波文庫)など。
2. Nadler, S. (1999). Spinoza: A Life. Cambridge University Press.
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