MAO酵素とは何か。ドーパミンやセロトニンを「片づける」仕組みと、チーズとたばこの話
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ドーパミンやセロトニンは、出したら出しっぱなしではありません。役目を終えたら、片づける係がいます。その代表がMAO(モノアミン酸化酵素)です。
QUIZMAO阻害薬を飲んでいる人がチーズを食べると、血圧が危険に上がることがある。答えを見る
○。「チーズ反応」と呼ばれる。
熟成チーズなどに多いチラミンを、ふだんはMAOが分解している。MAOがふさがれると分解されず、血圧が大きく上がる。
D2受容体の記事では、ドーパミンを「受け取る側」の話を書きました。今回は「片づける側」の話です。
目次
MAOとは何か:AとBの2種類
MAOは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの「モノアミン」と呼ばれる物質を分解する酵素です。MAO-AとMAO-Bの2種類があり、どちらの遺伝子もX染色体の上にあります [1]。
2つは、得意な相手が少し違います。MAO-Aが働かないようにしたマウスでは、脳のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンが増え、攻撃的な行動が見られました。一方、MAO-Bが働かないマウスでは、そうした攻撃性は見られませんでした [1]。
| 種類 | おもに関わる物質 | 薬で使われる場面 |
|---|---|---|
| MAO-A | セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン | うつ病の治療(MAO阻害薬) |
| MAO-B | ドーパミンなど | パーキンソン病の治療 |
MAOをふさぐ薬
MAOの働きをふさぐと、片づけられるはずの物質が脳に残ります。この仕組みを使った薬が「MAO阻害薬」です。
MAOを強くふさぐ薬は、うつ病の治療薬として高い効果がある一方、後で書く「チーズ反応」のために使い方が限られてきました。MAO-Bをふさぐ薬(セレギリン、ラサギリンなど)は、ドーパミンが減っていくパーキンソン病の治療に使われています [2]。
MAO阻害薬は、ほかの抗うつ薬や一部の薬、食品と組み合わせると危険なことがあります。処方されている人は、自己判断で薬を足したりやめたりせず、医師や薬剤師に確認してください。
チーズで血圧が上がる「チーズ反応」
MAO阻害薬が使われ始めたころ、薬を飲んでいる人が、チーズを食べたあとに激しい頭痛や危険な血圧の上昇を起こすことが報告されました。1960年代のはじめ、ロンドンの精神科医ブラックウェルは、こうした高血圧の発作を12人の患者で記録しています [3]。
原因は、熟成したチーズなどに多いチラミンという物質でした。ふだんはMAOがチラミンを分解しているので問題になりません。ところがMAOがふさがれていると、チラミンが分解されずに体に入り、血圧を大きく上げてしまいます。MAO阻害薬を飲む人が、チラミンの多い食品を避けるよう指導されるのはこのためです [3]。
POINT
ふだん気づかないところで、MAOは食べ物から入る物質も片づけている。
その後、MAO-Aを「可逆的に」ふさぐ薬(モクロベミド)のように、チーズ反応が起きにくい薬も作られました [2]。
QUIZMAO-Aの遺伝子の「弱めの型」を持つ人は、育った環境に関係なく攻撃的になる。答えを見る
×。環境と重なったときに関係が見られた。
問題が大きく出たのは、弱めの型と子どものころの虐待が重なったとき。型だけで行動が決まるわけではない。
MAO-Aの遺伝子と行動
1993年、オランダのある家系で、MAO-Aがまったく働かなくなる遺伝子の変異が見つかりました。この変異を持つ男性たちには、衝動的な攻撃性などの問題行動が見られ、尿の検査ではモノアミンの代謝が大きく乱れていました [4]。これは一つの家系の、まれな変異の話です。
もっとよくある違いもあります。MAO-Aの遺伝子には、働きが強めの型と弱めの型があります。ニュージーランドの男の子たちを生まれてから大人になるまで追った研究では、子どものころに虐待を受けた人のうち、働きが弱めの型の人は、のちに反社会的な問題を抱えやすく、強めの型の人ではその傾向が小さかったと報告されました [5]。
この結果は、その後の27の研究をまとめた分析で、男性については確かめられています。女性については、はっきりした結果は出ていません [6]。一方で、アメリカの大きな調査のデータを使った研究では、白人男性で同じ関係は確認できませんでした [9]。研究によって結果が分かれている、というのが正確なところです。
大事なのは、遺伝子の型だけで行動が決まるわけではないということです。最初の研究でも、問題が大きく出たのは「弱めの型」と「虐待を受けた経験」が重なったときでした [5]。遺伝子は、環境の影響の受けやすさを変えるものの一つ、と考えるほうが研究に合っています。
たばこを吸う人の脳では、MAOが減っていた
PETという画像検査で脳を調べた研究では、たばこを吸う人の脳では、吸わない人や禁煙した人に比べてMAO-Bが40%少なくなっていました [7]。同じ研究グループの別の研究では、MAO-Aも平均28%少なくなっていました [8]。
MAOが減ると、ドーパミンなどが片づけられにくくなります。研究者たちは、たばこの煙に含まれるニコチン以外の物質がMAOをふさいでいて、それがたばこのやめにくさに関わっている可能性を考えています。ただし、どれくらい関わっているかは、まだ分かっていません。
まとめ
- MAOは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどを分解して片づける酵素。AとBの2種類がある
- MAOをふさぐ薬は、うつ病やパーキンソン病の治療に使われている
- MAO阻害薬を飲んでいるときに、チラミンの多いチーズなどを食べると、血圧が危険に上がることがある
- MAO-Aの遺伝子の型は、子どものころの環境と重なったときに、行動との関係が見られた。型だけで行動が決まるわけではない
- たばこを吸う人の脳では、MAO-Bが40%、MAO-Aが平均28%少なかった
「ドーパミンを増やす」「セロトニンを増やす」という話を聞いたら、受け取る側(受容体)と、片づける側(MAOなど)もあることを思い出してください。脳の中の量は、出す・受け取る・片づけるの組み合わせで決まっています。
参考文献
1. Shih, J. C., Chen, K., & Ridd, M. J. (1999). Monoamine oxidase: from genes to behavior. Annual Review of Neuroscience, 22, 197–217.
2. Finberg, J. P. M., & Rabey, J. M. (2016). Inhibitors of MAO-A and MAO-B in psychiatry and neurology. Frontiers in Pharmacology, 7, 340.
3. Sathyanarayana Rao, T. S., & Yeragani, V. K. (2009). Hypertensive crisis and cheese. Indian Journal of Psychiatry, 51(1), 65–66.
4. Brunner, H. G., Nelen, M., Breakefield, X. O., Ropers, H. H., & van Oost, B. A. (1993). Abnormal behavior associated with a point mutation in the structural gene for monoamine oxidase A. Science, 262(5133), 578–580.
5. Caspi, A., McClay, J., Moffitt, T. E., et al. (2002). Role of genotype in the cycle of violence in maltreated children. Science, 297(5582), 851–854.
6. Byrd, A. L., & Manuck, S. B. (2014). MAOA, childhood maltreatment, and antisocial behavior: meta-analysis of a gene-environment interaction. Biological Psychiatry, 75(1), 9–17.
7. Fowler, J. S., Volkow, N. D., Wang, G.-J., et al. (1996). Inhibition of monoamine oxidase B in the brains of smokers. Nature, 379, 733–736.
8. Fowler, J. S., Volkow, N. D., Wang, G.-J., et al. (1996). Brain monoamine oxidase A inhibition in cigarette smokers. PNAS, 93(24), 14065–14069.
9. Haberstick, B. C., Lessem, J. M., Hewitt, J. K., et al. (2014). MAOA genotype, childhood maltreatment, and their interaction in the etiology of adult antisocial behaviors. Biological Psychiatry, 75(1), 25–30.
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